第16話 対策会議
「招待状?」
「あぁ。陰でコソコソやっても意味がねぇからな。正々堂々、真正面から卑怯に戦ってやるよ」
カラカラと笑いながら、男は言う。
「その手紙にも書いてあるが、俺たちはこの『貴族特区』全体に爆弾を仕込んだ」
「……なんだと?」
貴族特区とは、その名の通り、この学園国で貴族のみが住んでいる場所だ。
「お前……!それが起爆したらどうなるか分かってんのか!」
「当然、世界は大混乱!そして、仇を打とうと戦争になるだろう!だが、それが俺たちの望みだ!世界を混沌へと陥れ、かつての帝国対その他の状況を生み出す!戦いの中にしか興味を見いだせない俺たちは、この平和な世界なんか望んじゃいねぇ!」
大仰に、両手を空へ広げながら男は言う。それを聞いて、ルカは不快そうに眉をしかめた。
「お前もそうだろうが兄弟!お前も、俺達と同じで戦いの中でしか生きられない!」
「ルカ……」
「大丈夫だ。安心しろ」
心配そうに問いかけるローゼスに、微笑みを見せるルカ。
「もういい。招待状は受けとってやるから、俺の気が変わらない内に去れ。でないと、いつこの剣がお前の首を斬り落とすか気が気でない」
「ほう?いいのか、そんな簡単に逃がして」
「挑発して戦いというのが目に見えてる。それに、どうせお前が死んだら全爆弾が一気にドカン!なんだろ?」
「よく分かってるじゃないか。非常に残念だが、企みもバレたことだし、俺はここで退散するぜ」
懐から、煙幕玉を取りだして地面に叩きつける。
「俺の名は『ガイア』。
「ぬかせ。誰がテロリストの名前なんて覚えるかよ」
煙が晴れると、既にガイアの姿はそこから居なくなっていた。気配で追おうとしたが、やはり他の構成員と違うのか、途中で完璧に消された。
「めんどくさい事になったな……」
「これからどうしますか?」
脅威もなくなったので、ローゼスを地面に下ろしてから、足元に投げられた手紙を拾う。軽く見渡しても、ルカの勘に触れるものはないため、安全なものだろう。
「狙われているのが分かった以上、外にいるのは危険だ。だがしかし、奴らが馬鹿正直に真正面から来るのも想像できない」
最悪、ローゼスの部屋に無理やり侵入して連れ去る、ということもルカの頭の中で可能性の一つとしてある。
ならば、最も安全なのは、ずっと傍にいること。
「ローゼス」
「はい」
「今夜は、家に来い。厳密には俺の家じゃないけど」
「はい…………はい?」
(………え……え?これってもしかして────)
「………っ!?」
お持ち帰り~~~~!!どこで習ったのかは知らないが、頭の中でピンク色の妄想がローゼスの中で暴れ回るのだった。
「はた面倒だな」
「同感だ」
その後、急いでフリューゲル邸へと帰宅した二人。既にルカが確認済みの手紙を読んで、フリューゲルがぽつり。
内容はこうである。『明日の夜10時。いつも使っている訓練所にて待つ。来ないなら分かっているな?貴族特区がボン!だ。楽しみにしてな兄弟』。
学園国の貴族特区は、全体として一割にも満たないが、そこに詰まっている権力と権威はとんでもない。何せ、世界中の王族貴族がいるのだ。爆弾なんて爆発させたその日には戦争待ったナシだ。
そういう可能性が大いに有り得ることを想像したフリューゲルは、こめかみをトントンっと叩いて対策を考える。
「とりあえず、そこの小娘に関しては、今日一日限りの宿泊を許す。本当は、ルカ以外は入れたくは無いが……ま、特別処置ということだな」
「こ、小娘……」
「何か間違っていたか?私からすれば充分小娘だろうに」
もういちど言うが、実年齢は
「あはは……と、とにかく、お願いを聞いて下さりありがとうございます。フリューゲル様」
「ルカの頼みだからな」
「………ルカ。あなた、何をしたらこんなに魔女様に気に入られるのかしら?」
「知らん。俺も気づいたらこうだった」
ヒソヒソと顔を寄せ合い話す二人。ルカも実は断られるんじゃないかと思ったが、予想以上にルカにゲロ甘のようだ。
「さて、私は爆弾の方を何とかしようか。私は今の平和をたいへん好んでいるのでな。またあの時のようにさせるわけにはいかん」
「一人で平気か?」
「あまりバカにするな。私は『魔女』なのだぞ?不可能などあんまりない」
「あんまりなんだ……」
「そりゃあ私にだって出来ないことはある。ルカ、お前は愚か者の処理を頼んだ」
「あぁ任せろ」
ソファから立ち上がり、早速爆弾処理の準備にかかるため着替えをしようと部屋へ向かう。その後は、高いところに転移してから、虱潰しに貴族特区を探すだけだ。
「あぁ、そうだ二人とも」
着替えが終わったフリューゲルが、転移で二人の目の前に現れる。
「一応ここは私の家だ。若気の至りとかで一線を超えるんじゃないぞ」
「超えません!!!!」
「あまりアホなこと言ってないではよ行ってこい」
「クク、ではな」
ローゼスは顔を真っ赤にして言い返し、ルカは呆れたような顔で言い返す。反応に満足したフリューゲルは、実に楽しそうに爆弾処理へと向かうのだった。
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