第15話 招待状
「何だ、友人風に言うのなら、俺は『転生者』というものでな」
「てん……せいしゃ?」
聞いたことが無い言葉なのか、ローゼスが同じ言葉を繰り返す。
「あぁ。なんと言えばいいのか…………簡単に言うなら、俺は一度死んで生まれ変わったということだ」
目を閉じて、苦しくも、楽しかった前世の記憶を思い出す。
「聞いてくれ、俺の前世の話だ」
ルカの前世の世界では、争いが絶えない所だった。
人と、魔王と呼ばれる存在。国と国の醜い削り合い。小さな村同士での些細な諍い。そういうのをまとめて力でねじ伏せ、争いのない平和な世界にする────というのは個人個人で違うが、根底では平和な世界を目指す志を持った人達かいた。
それがどんどん大きくなり、村となり、街となり、最終的には国となり、かつてルカは、その国の傭兵団の一員として戦場を渡り歩いていた。
戦いの日々は確かに、ルカにとってはキツイものではあったが、それでも心壊れず、悲しき戦闘マシーンとならなかったのは、背中を預け、共に戦場を歩いた戦友の存在がいたからだ。
『なぁ───、俺はな、誰もが笑っているところが好きなんだよ』
『誰もが……?』
『あぁ。お前は違うのか?なんでお前は平和のために戦っている?』
『……別に、そんな深い理由はない。それしか知らなかったし、たまたまここに流れ着いた。それだけだ』
『おまっ……』
『でも……そうだな。うん、誰かの笑顔っていうのは、いいものだな』
戦い、戦い、戦い続けた。沢山の人も斬った。それでも壊れなかったのは、いつでも隣で笑っていた戦友がいた。
だから、ついに全てが終わったその日まで生き延びることが出来た。
そして、───はルカへと生まれ変わる。その命は、確かに望まれていて、家を出ていくその日まで、沢山の愛情を受けて育ったルカはその手で、全てを断ち切ってしまった。
『ば、バケモノ……っ!』
剣を振ってみないか?前世では享受出来なかった平和な世界というのを堪能していたルカへ、父親がそう言った。
『………いいの?』
『もちろんだ!お前には、強い男になって、この家を継いでもらうんだからな!強い男はいいぞ!何よりもモテる!』
『……?』
モテる、という意味は分からなかったが、前世では腐るほどに振り続け、『剣鬼』やら『無剣』やらと大層な二つ名が付いていたルカ。
剣を握ると、今までの経験が蘇りかるーくいつも通り、父親が連れてきた講師の人へと剣を振るうと────
『…………え』
────風が吹き、大柄な大人が血を撒き散らしながら吹き飛んだ。そのせいで、阿鼻叫喚となり、その場にいた全員は、ルカを人間だとは思えないような目で見ていた。
そこからは、かつてルカが夢で見た事と同じである。家を飛び出て、家名を捨て、フリューゲルに拾われる。それが、今世のルカが歩いてきた人生である。
「俺は別に将来、何かをやろうとは思っていない。そもそも、学園にも通うつもりはなかったが、フリューゲルがどうしてもと言うから通っているだけだ。だから俺は普段の授業はやる気ないし、これからもやるつもりは無い」
「………あなた、ここを卒業したら、どうするつもりですか?」
「そうだな……まぁ目下の目標は
「では……もし、それが終わったら?」
「………ま、適当に過ごすさ。フリューゲルの手伝いをそのまま続けるのもいいし、どっか適当に彷徨うのもいいな」
「………っ」
「……ローゼス?」
気が付けば、ローゼスはルカへと抱きついていた。上手くは表現出来ないが、どことなく、今すぐにでも消えてしまいそうなその表情と雰囲気に、どうしようもなく不安を感じたのだ。
「ルカ……無気力になっても、せめて死ぬことだけはやめてください」
「死ぬ……俺にそんな気は無いよ」
「嘘ばっかり。何となくですが、そんな感じがしました」
「勘かよ……」
(……かつて選択肢にあったのは事実だけど)
「今の話を聞いて、わたくしがあなたの価値観を変えることは、恐らく出来ません……でも、傍に居ることはできますわ!」
「ローゼス……」
「あなたは一人じゃありません!ましてや、バケモノなんかでもありません!何かあれば、わたくしが────」
「ローゼス!!!!!!」
殺気。急に刺すように向けられたそれに、ルカは一瞬で戦闘態勢になり、更に強くローゼスを抱き締める。片手で抱き上げながら、右手で急に現れた人影へと、剣を伸ばして打ち合う。
二度斬り結び、大きく距離を取った。
「ヒュウ、やはりやるなぁ謎の剣士。仲間の情報通りだ」
「………お前、今までの雑兵どもとは違うな。強者の臭いがする」
「臭うか?」
「あぁ。血の匂いがな」
「……いつの間に。全く気が付きませんでしたわ」
「しっかり掴まっていろローゼス。あいつ、かなりのやり手だ」
首に手を回し、しっかりとホールドしたのを確認してから、守るように剣を構える。
「やる気か?いくらここに人気が無いとはいえ、少し行けば大通りだ。剣戟の音など、すぐに届くぞ」
「落ち着けよ兄弟。確かにさっき襲ったのは俺の興味本位だが、今日はこいつを届けに来ただけさ」
そう言うと、全身をお決まりな黒ポンチョで隠した男は懐に手を入れて手紙を取りだしてルカの足元に投げる。
「招待状だぜ兄弟。俺は明日、堂々とそのお嬢さんを攫いに来る」
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