第4話 やる気ゼロの天才剣士
キィン!と剣と剣が打ち合った剣戟音。グラりと揺れる身体。そして、ローゼスの目に映る、心底つまらないものを見たと言いたげな男の顔。
受け流された。と感じたその時には、ローゼスの目の前にはいつの間にか取り出されたのであろう、謎の小袋があり、男がそれを握り潰した瞬間、何かが舞った。
「あが……かっ!?」
「つまんねぇ……本当につまんねぇ……折角楽しくなってきたのによう……最後はやっぱそれに拘るのか」
どさり、とローゼスの身体が地面に沈む。身体を動かそうにも、意思に反して全くもって動こうとしない。
(これは……麻痺毒……!)
「ひゅう、さっすがリーダー。俺、さっきの突き全く見えませんでしたよ」
「そりゃあオメェの実力がまだまだってだけだ……もう一人どこ行った?」
「見回りに行きましたよ。もしかしたら、この戦闘音に気づいたヤツと戦えるかもって意気込んで」
「こ……の……」
全く動こうとしない身体をなんとか剣を支えにして立ち上がる。だが、足は震えており、今にも倒れそうだ。
「まぁいい。さっさとこのお嬢さんを連れ出してズラかるぞ。全く、殺さないというのはめんど────」
「ガハッ!?」
「────は?」
瞬間、リーダーと名乗る男の真横を、凄い勢いで何かが通り過ぎて行った。慌てて目を向ければ、先程見回りに行った仲間の一人が、腕を一本斬り落とされた状態で倒れている。
「いけないな。油断、慢心、技術。どれをとっても稚拙だ。その状態で俺の前に立つとは、あまりにも無謀すぎる」
「て……めぇ……いつの間に」
気付けば、震えるローゼスを支えるように抱きしめている青年────ルカがそこに立っていた。
「あ…な、たは……」
「ごめん。少し遅くなった。軽く片付けるから、待っててくれないか?」
優しく、ローゼスの手から剣を取り上げて座らせる。その横に剣も置くと、庇うようにルカは男達と向かい合う。
「
「……ハッ、おいおい……誰かと思いきやまたガキじゃねぇか。ターゲットはそこの女だけだ。怪我したくなけりゃどきな」
「それは無理な相談だな。平和を守るために俺がいる。それに────」
くいっ、とルカが先程吹き飛ばした男に対して顎を向けた。
「────そこにいる雑魚。誰が吹き飛ばしたと思っている?」
「あまり舐めるなよガキ。俺たちゃ天下もビビるテロリスト集団だぜ」
その言葉に、先程から傍観していた別の男も、剣を抜いて、ルカへと切っ先を向ける。それを見て、ルカもゆっくりと腰から剣を引き抜いた。だがしかし、それには鞘が付いたままであるが。
「……プっ、アギャハハハハ!!!見ろよリーダー!あいつ!鞘が付いたまま構えてますぜ!」
耐えきれず、ルカへと指を指しながら笑う。それを見て、ルカの目がターゲットを絞る。
「剣の振り方も分からないんでちゅか~!それならとっとと背中を向けて、ママのミルクでも────」
「随分とお前の部下は、戦場でお喋りが好きなようだな?」
「────は?」
スパン、とルカが剣を振るう。それだけで、男たちに向かって強烈な風が吹き荒び、先程ルカをバカにして男の腕が吹き飛んだ。
「ひ、ぎゃぁぁぁぁ!?」
「リゲル!?」
「生け捕りにしろ、と命令が出ているのでね」
ザっ、とルカが一歩踏み込む。雲に隠れていた月光が、ゆっくりとルカの姿を照らす。
「鞘から抜いたら、うっかり殺してしまう」
「……ひははははは!!!いいねぇ!!!この依頼を受けて正解だったぜぇぇ!!」
(……これが、噂の)
ローゼスは、その顔を驚愕の色に染めながら、ルカのことについて思い返した。
かつてルカは、その圧倒的な実力から、学園内では『天才剣士』という名前で有名だった。
前代未聞の魔女の隠し子。入学試験首席。誰も鞘から剣を抜いた姿を見た事がなく、それ故に『無剣』とも呼ばれることもあった。
だがしかし、周りを黙らせるだけの実力を見せ、目標を達成した二年目から、ルカは全くやる気も出さなくなり、次第に『やる気ゼロの天才剣士』という異名がつく。
(強い……本当に)
ローゼスが呆然としている間にも、男の腕と足を一本ずつ斬り落として、戦闘は終わっていた。
「………消えた……か?」
男を倒した瞬間、身体に魔法陣が浮かび上がり、消える。周りを見ると、先程の下っ端二人の姿もいつの間にか消えていた。急いで気配を探そうとするも見当たらない。
「逃がしたか」
フリューゲルからの依頼は生け捕りだったが、流石に魔法で逃げられてしまってはルカでさえ対処は出来ない。仕方ない、と切り替えて剣を戻し、くるりとルカは振り向く。
ゆっくりとローゼスへと近づき、麻痺で動けない彼女と、膝を付いて目線を合わせた。
「大丈夫か?怪我はしてない?」
「………………っ」
しかし、ローゼスはルカの問いかけには答えず、口を一文字に結んで体を強張らせるだけ。
クラスメイトであるため、普段の授業態度の事は知っているローゼス。話している姿も、アーノルドとしか喋っているところを見たところがなく、剣術の授業の時も、たまーに仕方なく剣を振っている姿しか見ない。
(ちょ……こ、こんなの!反則ですわ!?)
端的に言うと、ローゼスはルカの姿にギャップ萌えしていたのである。
「………あれ?」
反応がないことに、首を傾げるルカ。
(おかしいな。友人は『こういう場面がもしあったら、こうするといいよ!』と言っていたのだが……)
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