第12話 金曜日
水曜日に学校のプールで倒れていた女子大生は一命を取り留めたそうだ。
「えっ? 生きてたんだ!」
セリナの素っ頓狂な声が図書室にこだました。
机に突っ伏して寝ていた彼が驚いて顔を上げて私たちの方を見たが、またすぐに顔を腕に埋めた。歴史の本を読んでいる彼は顔色ひとつ変えずに本を読み続けている。こちらには関心がないみたいだった。
「死んでるってサッカー部の顧問が勝手に騒いでただけで、実際は意識は無かったけど生きてたそうです。病院に搬送されたあと治療を受けて、意識を取り戻したみたいですよ」
マナミが今朝のニュースで報道されていた話と学校で広まった話を混ぜて冷静に経緯を説明した。
「あぁでも良かった良かった! ねっ?」
セリナはそう言って受付カウンターに座るフミカの肩を叩いた。フミカは伏し目がちに小さく頷いた。
「でもその女子大生の人、例の本をまだ持ってるってことですよね?」
マナミが受付カウンターに背中で寄りかかりながらそう言った。
マナミは昨日図書室で起きたことも、それに至った経緯も全てを知っていた。信じられないような話も自然と受け入れていて、疑いなどひとつも持っていない様子だ。
きっとマナミはセリナの事を全面的に信用し心を許しているのだろう。
「どうにかして本を回収しないとね……まだまだ油断出来ないか……」
セリナは肩で大きく息をしたあと険しい表情になってそう呟いた。さっきまでの気の抜けたムードからは一変した。
女子大生が働いてた大型古書店にあるもう一冊の呪いの本は、昨日の放課後に私とセリナで回収して、ミズエさんに引き取ってもらった。
あと残りは女子大生が持っている一冊だ。
最後まで気を抜けない。
でも頼もしいセリナがいるならきっと大丈夫だ。
私の中にもセリナへの強い信頼感が芽生えていた。
「せっかくだから何か本借りようかな? 一緒に来てよ西川さん。オススメ教えて!」
マナミがそう言って私の腕を掴むと書架の方へと引っ張って行く。私は勢いに押されなすがまま早足で歩きだす。
成り行きで海外文学のコーナーへとたどり着いた。
「若草物語か……なんか聞いたことある……」
「それオススメです……」
「じゃあこれにする!」
マナミは本を手に取ると私を置き去りにして、さっさと受付カウンターへと向かっていった。
私はわざとゆっくり後を追った。
そして受付カウンターが遠くから見渡せる位置まで来て立ち止まる。
椅子から立ち上がりマナミへの対応をするフミカのはとても清々しい表情をしていた。
マナミの横に立って、それを嬉しそうにセリナが微笑みながら見つめていた。
三人の姿を見て私は、図書室という空間が本当に好きだと思った。
〈第二章『私なんていてもいなくても同じ』おわり〉
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