第53話 魔法契約書


いつもより少し遅れたけど、毎年恒例の集まりが家で行われる。全国から付き合いのある冒険者が次々と会場に足を運ぶ。


日本ではSランククランはそれほど多くはない。手で数えられる程しか存在しない。なので、顔つなぎでやってくる冒険者も少なくない。


私もお父さんの後ろで待機している。去年はこの冒険者達の視線に圧される事もあったけど、今年は問題は無さそうです。これも龍人くんのお陰です。


「まずは報告からだな。先日のテロについてだが、テロリストは全員捕まえられた。尋問した結果、日本の政治家や闇ギルド、冒険者ギルドの中にも協力者が居る事がわかった。」


ざわざわざわざわ


「静粛にお願いします!」


「既に情報にあった闇ギルドは潰した。冒険者ギルドの方は少し遅かった。俺の懇意にしている企業のパーティーに冒険者が乱入して問題を起こしたようだ。主だった冒険者の名は近藤亘、Sランク冒険者候補だった者だ。」


ざわざわざわざわ


「その他にもそういう者達はいるだろう。そこでだ。俺のクラン〈豪傑の集い〉は解散することにした。それに伴い、同盟関係と繋がりも全て白紙に戻す。」


ざわざわざわざわざわざわざわざわ


「おい、蓮司!? 聞いて無いぞ!?? Sランククランの解散がどれだけ周りに影響を与えると思っている!」


「良い機会だと思ってな。〈豪傑の集い〉は大きくなり過ぎた。不穏な輩が入り込むくらいにはな。最近は迷宮にしても、人為的なテロ活動も活発になってきている。不穏な輩を抱えたままだとこちらまで危険だと思ってな。うちの者にも伝えてある。」


「納得しているのか?」


「納得してもらったよ。その上で残りたい者には、最近入手した〈魔法契約書〉を提示し、その条件を確認して契約を結んだ者を受け入れた。今後、息子のレンが組織するクランに組み込む予定だ。」


摩天楼ショップで売っていたので、二階堂家から大量に譲って貰ったのだ。


「〈魔法契約書〉とは何だ?」


「これだな。署名した者が条件を破ると契約書が破棄されるようになる。この魔法契約書は本人と契約主でそれぞれ所持している。他者が干渉することも出来ない上に自分の意思で出し入れ出来るからクランの証にもなる。仲間を信用しない訳ではないが、お互いに疑う必要が無くなるのはメリットしかない。そう、疚しいことを考えている者以外はな。」


代表して〈魔法契約書〉を確認しているのは、昔から付き合いのあるSランククランのマスターである。昔はお父さんとパーティーを組んでいたと聞いたことがある。年に数回だけど、家族ぐるみでの付き合いがある。


「ほう~。家族も契約で縛るのか・・・」


「当たり前だろ? 頭が腐ったんじゃ元もこうもねぇだろ? 何も可笑しいことはねぇ。全員が納得して署名をしている。」


魔法契約書には、テロ行為に加担しないことや悪に加担しないことなど、事細かく条件が並べられている。それはクランのメンバーより厳しい条件だった。何故知っているかって? それは私も署名したからです。


「俺達は強くならないと行けねぇ。足を引っ張る者にかける時間はねぇんだよ。それがこれ一枚で解決する。信用プラス魔法契約書で絆がより深まる。正直、この条件を呑めねぇ奴とは仲間には慣れねぇよ。」


「フム。この〈魔法契約書〉という物は何処で購入出来るのだ?」


「それは非公開だな。」


「そうであるならば融通してくれ。蓮司も知っている通り、私は人を見る目が無いようだ。近藤亘は私も何度か逢っており、Sランクへの推薦を出したのも私だ。」


「ククク、トラは昔から人を見る目は無いだろう? 本当に今更だな。昔から悪い女ばかり引っ掛かっているだろう?」


「うっ・うるさいわ! そうだな、同盟も白紙となる事だし、私と蓮司で魔法契約書を交わそうでは無いか。魔法契約書に余裕があるなら、蓮司のところを真似て不安を一掃したいところだが・・・フム。蓮司、契約を交わしたら相談がある。」


「マスター!?」


「契約書を見てみろ! 色々と条件が並べられているが何一つ問題は無い。私はな、魔物に襲われるより、後ろから仲間に刺されることの方が怖いのだ。家族の事もあるからな。まずは私が、そして家族全員が契約書を交わす。お互いに腹を割って話すなら必要なことだ。」


「俺の方は構わないぞ! 条件付きで魔法契約書を融通してやっても良い。俺も虎を疑いたくねぇしな。」


「そう言うことだ。」


「虎と契約書を交わす前に魔法契約書と言う物がどういったものなのか証明しよう。俺達は何度も実験を繰り返して信用しているがお前達はそうではない。試しにこの条件で虎に署名してもらう。〈近藤亘が悪事に加担しているのを知っていた〉〈近藤亘が悪事に加担しているのを知らなかった〉」


「何を!?」


「構わない。ここに署名すれば良いのだな。」


〈近藤亘が悪事に加担しているのを知っていた〉の契約書が燃えて消える。


〈近藤亘が悪事に加担しているのを知らなかった〉が残る。


「この魔法契約書は隠していても関係なく判断する。何度も試したから俺達は信用している。虎もわかるだろう?」


「あぁ、正直言って疑われてもしょうがないしな。私は署名した時に実は知っていたと心の中で思いながら署名した。そう言う嘘も通用しないと言うことだな。」


「あぁ、俺達もそれは何度も確認した。この契約書は只ただ事実だけで判断する。検証の為に多くの犠牲者が出たことか・・・」


お母さんもお父さんに色々と試していたようだけど、内容までは教えてくれませんでした。只、お父さんが土下座していたのを見てしまいました。

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