第49話 帰宅

龍人がイベントホールを出ていった後、イベントホールは静寂に包まれていた。


「はぁ~情けない。子供に助けられた大人がどの口でほざいている。どちらが子供だかわからないな。」


「全くだな。大切な人を亡くしたのはわかるが、怒りを向ける矛先が違うと何故わからん?」


静寂から冒険者の源治さんが溜め息を漏らして話し始めた。そして呆れたように蔵田知事も非難の声をあげた。その後は付き合いきれぬとその場を後にした。



◆◇◆◇◆◇


「お~い、龍人って!? その腕どうしたよ!?」


「ハハハ、持ってかれちゃいました。それより後はお願いしても良いですか?」


出口に向かって歩いていると、見知った顔が走って来た。そうクラン〈豪傑の集い〉の面々だった。先頭の蓮司さんは俺達に気づいてやって来るが俺の左腕が無い事に驚愕し心配してくれる。


「良いぞ。後は任せろ! 萌衣も帰って休め。」


「うん・・・」


「どうした? 萌衣? それに・・・」


「龍人くんが一生懸命に戦ったのに・・・」


「こんなにボロボロになるまで戦ったのに・・・」


どうやら二人はさっきの事を引きずっているようだ。


「二人とも、私は気にして無いからね。あの人達はきっと大切な人を亡くしたんだと思う。私の力不足は本当の事だしね。」


『そんなことない!!』


「龍人くんが居なければ全員死んでたよ!」


「そうです。何も出来なかったあの人達に龍人くんを責める資格何て無いです。それなのに・・・」


二人は目に涙を溜めていた。二人だけでなく、クランメンバーの皆も同様だった。


「何があった!?」


「実は・・・」


バキッ!!


簡単にだがさっきの出来事を蓮司さん達に説明した。蓮司さんも彼女達が何に怒っていたのかを理解して同様に怒りを見せた。


「龍人は何も背負う必要はねぇぜ。依頼を受けている訳でもねぇんだからな。寧ろ見殺しにしたところで問題何て無ぇんだよ! 良いか、冒険者は慈善事業では無いんだ。守りたい者がいるなら自分の手で守りやがれ。」


「そうですね。でも、今回は私の大切な人の為に行動した結果です。私は皆が怪我なく家に帰れるだけで満足です。例えそれ以外の者に恨まれたとしてもです。私を恨らんで楽になるなら恨んでくれままで問題ありません。」


思っていることを口にする。大事なのは皆で家に帰れることなのだから。

詳しい話しは後日ということになり、蓮司さん達は後始末があるので別れることになった。


『ちょっと待って!!』


後方から急に声をかけられ、俺達は振り返る。


「あの! 助けてくれてありがとうございました!」


振り返ると魔物に立ち向かっていた勇敢な少女達が一斉に頭を下げていた。


「助けられて良かったです。」


「延期になるかもだけど、私達のクリスマスライブを是非見に来て下さい! お礼にチケットを贈らせて頂きますね。」


「クリスマスライブ??」


「あぁ~そう言えば龍人くんテレビ観ないもんね? 彼女達はアイドルだよ!」


「アイドル? 何だね。それは凄いや。」


アイドルが何か良くわからないけど、皆にあわせておこう。


「もしかして!? アイドルが何かもわかって無いのですか!?」


「・・・いや、そんな事無いよ・・」


「プププ、本当に知らないみたいだよ。」


「そんなこと無いやい! それでお礼は大丈夫ですので気にしないで下さい。ほら、みんな帰るよ。クリスマスパーティーやるんだよね?」


「クリスマスパーティーって、その腕は大丈夫なの? 病院に行った方が良いんじゃない?」


腕かぁ・・ダークマターで傷は塞いでいるから問題は無いけど不便って言えば不便だ。


「止血してるから大丈夫だよ。明日から長期休暇にもなるんだし準備も多くある。ここに居ても良い事に成らないよ。」


冒険者だけでは無く、警察も次々に建物内に入って来ている。今のうちにここを離れておきたい。


「連絡先を交換して下さい!」


「え~と? 連絡先?」


「龍人くん、携帯電話持って無いからね。クランの名刺を渡せば良いんじゃない?」


「これを機会に携帯電話を購入した方が良いのでは無いですか?」


「う~ん、考えておくよ。そう言うことだからクランの名刺でごめん。何かあればここに連絡を入れて下さい。」


「わかりました。何かあれば連絡させてもらいますね。」


彼女達と別れ、避難して来た客に紛れて外へ出てクランハウスへと帰宅した。


クランハウスへ帰ると、メイド達が準備した料理でクリスマスパーティーを行った。皆から初めてプレゼントを贈られ、俺からもメイド達にクリスマスプレゼントを贈った。クランメンバーに用意したプレゼントはショッピングモールで渡してしまったのでない。


皆疲れている事もあり、クリスマスパーティーは早々にお開きになり、人生で初めてのクリスマスパーティーは終わりを告げた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る