第37話 負けない心


私はアイドルグループ〈I・SYEL〉の高梨瑪留たかなしめるです。全国デビューして人気急上昇中のアイドルです。


今日から始まるクリスマスライブを兼ねて、最近出来たショッピングモールのイベントホールでメンバー全員でイベントに参加していました。県知事さんがわざわざ来てくれたのには緊張しました。


司会者の進行のもと、イベントは大盛況でこのまま終われていれば最高だったのにな。


『キャアアァァーーーーー!!!!』


観客席からの悲鳴から楽しかったイベントが絶望へと変わってしまったのです。


「レッドオーガだと!?」


観客席の一画には遠くからでも良く見える巨大な異形な生き物が暴れていました。その魔物が腕を振るう毎に鮮血が舞い、人がうぷぅ・・やめておきましょう。


「避難を! あれは私達では無理だ!」


警備員は優秀な冒険者に依頼している。もしもの時の為に戦える冒険者を配置していると聞いています。それも今回は県知事が来るというのもあって高ランクの冒険者が警備についているはずなのですが?


「あの魔物は上級迷宮レベルの魔物です。我々では討伐は不可能です。避難を急いで下さい!」


『あぁ~テステス。聞こえてるかな? 我々は〈悪の猛獣使い〉である。ここを占拠した悪党だよ。出口は全て閉鎖したから、ここからは誰も出られ無いよん♪ キャハハ、楽しい楽しいクリスマスを邪魔しちゃってゴメンちゃい。代わりに我々から血のクリスマスをプレゼントしよう。思う存分に楽しんでくれて良いんだぞ♥️ それじゃ、皆の健闘を楽しく見させてもらうね。バイバイ♪』


「我々が何者か知って頂けたかな? ここは現在特殊な結界で覆われております。助かるには我々を倒して結界を解除しなくてはなりません。ここから出ても良いですが命の保証は出来ません。キャハハハ! ここでも一緒かぁ♪」


仮面をしてますが笑っていることだけは確かです。


「目的はなんだ!」


「目的? 強いて言えば楽しいからかな? 人間の絶望した顔は本当に素晴らしい♪」


「狂ってやがる!」


「早速ゲームをしましょう♪ 私の可愛いペットと戦ってもらいます。戦っている間は他の者には手出しさせません。ただし、戦う相手が居ない場合はその限りではありません。さぁ、誰が生け贄になるのかな♪」


「私達が行くしか無さそうですね。」


警備員の冒険者さん達が行くみたいです。


「人数の制限は無いんだな?」


「何人でも良いよ♪ 少しは楽しませてやってくれない困るよ?」


魔物を10人の冒険者が囲い、一斉に攻撃を開始した。流石に魔物でも10人の冒険者に囲まれれば倒せないまでも善戦できるのではと思っていました。


そもそも剣で斬っても傷一つ付かない相手をどうしろと言う話しです。一人また一人と殺され喰われて行く光景は私達を絶望に落とすには十分でした。


「キャハハハ! 良いね! 良いね! 最高の顔だよ♪ そろそろ次に戦う人を決めておかないと大変な事になるよ? そうですね。クフフフ、良いこと思いついちゃったよ♪ 折角お姫様達が居るんだから狙っちゃおう! ほら! お姫様を助かるために戦う勇者は居るかな?」


お姫様?? あっ! 私達の事かな? そうか・・


「死にたくないよぉ~」


メンバーの皆も理解したのか泣いてしまった。


『グアアアッ!!!』


最後の冒険者が壁に叩き付けられ気を失った。


「彼女達に手は出させん!!」


県知事のおじさんが剣を握り魔物に斬りかかるが


「ガハァッ」


吹き飛ばされ床を転がっていった。


「あら? 他に姫を助ける勇者は居ないのかな? 残念だな♪」


魔物がこちらへ向かって来る。私は転がっている剣を拾い、メンバーの前に立って剣を構えた。


「キャハハハ! お姫様が剣を取っちゃったよ! クフフフ、どうなのこれ? こんだけいてクズしか居ねぇのかよ! うけるわ♪」


剣を持つ手が震える。ゆっくりとだが近づいてくる魔物に恐怖するも自身を奮い立たせて待ち構える。勝てるわけはない。ただ何もしないで殺されるのが嫌なだけ。最後まで足掻いて死んだ方が良いと思っただけ。


ジャリ


「メルちゃん、私も付き合うよ!」


メンバーが次々に剣を拾い構えだした。


「みんな・・一斉にで斬りかかろう!」


『うん!』


結局、みんな考えは同じだった。全員が震える手で最後の時を待つ。魔物が目の前に来た。少しでもダメージを与えてやる!


振るった剣が身体に当たる。しかし、剣は弾かれ私達の手から離れて転がる。魔物が振り上げた拳が頭上に迫る。目を閉じて最後を待つ。


ドンッ!!!!


ズドン!!!!


GYAGA!!??


えっ!? 幾ら待っても魔物の拳が来ることは無かった。ゆっくり、目をあけて周囲を見渡すと目の前に居た魔物が居なくなっており、代わりに同じくらいの少年が居た。


「ごめん。遅くなった。後は俺に任せて欲しい。後ろに下がって休んでいてくれ。」


男の子はそう言うと前に進んでいった。私達は力が抜けてその場で腰が抜けて遠ざかる少年を眺めることしか出来なかった。

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