第43話 未来の獣医へ

 1ヶ月後、ラースの体調は完全に復活していた。

病院業務にも戻っている。


 唯一、変化した点としたらクレインと結婚した事だろうか。


 結婚式も半年後に挙げる予定である。


「院長、今ので最後の患者さんです」

「ありがとう。では、今日は終わりにしましょうか」


 最後の患者さんの治療を終えると、病院を閉める準備をする。


「こっちもやらなければですね」


 ラースが立ち上げた地域動物医療ネットワークも徐々に機能するようになっていた。


 地域動物医療連携室の職員の働きのおかげで、加盟してくれる開業医さんの数も増加している。


 これで、もっと増えて行けば地域の動物医療は大きく発展する事だろう。


「院長、そろそろ帰りませんか?」

「そうですね。帰りますか」


 夜もだいぶ更けてきた。

書類のチェックは明日にでもやるとしよう。


 病院業務を終えて、ラースたちは帰路に就く。




「クレイン、お前は本当にいい妻を持ったな」


 辺境伯邸。

バーロンは酒を煽りながら口にした。

今日は親子2人で酒を飲んでいる。


「はい、私にはもったいないくらいですよ」

「一時は婚約者も作ろうとせず、どうしたものかと思ったがな」


 クレインはずっと婚約者を作らなかった。

貴族というのは大抵は、16歳までに婚約者を決めるものである。


 辺境伯の後継ぎということもあり、バーロンはずっとそこを危惧していたのだ。


「父上には色々とご心配をおかけしました」

「いや、あんな素晴らしい婚約者が居るならいいじゃないか。立派だよ彼女は」


 ラースはまだ若い。

しかし、その肩には大きな責任が乗っている。


 医者というのは、命を預かっているのだ。

そこでミスをしたら、命を失ってしまう。

そんな、命の最前線で戦っているのである。


「私も、負けてられませんね」

「人間というは今は見えているが、10年後は見えていないものだ。しかし、10年後を見える優れた目の持ち主がいる。それがラースさんであったり今は亡きベルベットであると私は思うな」


 今日救えなかった患者も対策が見つかれば、明日は助けられるかもしれない。

そうしたら、1日分多くの患者さんたちをたすける事が出来るのだ。


 そのために、情報は公表する。

そこから、新たな発見があり医学は進歩していくのである。


 医療の世界は日進月歩なのだ。


「私も、伝説の名医に会ってみたかったですね」


 クレインは常々思っていた。


「それなら、ラースさんを見てればいいんじゃないか?」

「どういう意味ですか?」

「何、今のラースさんは亡きベルベットそのものだよ」

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