第38話 助かる希望

 ラースは治療室へと戻る。


「詳しい検査をしてみましょう」


 さらに詳細な検査をすることにした。


《医療魔法・核磁気共鳴》


 ラースは、状態を詳しく見る。

先ほどのスキャンの魔法よりも優れているものである。


「よかった。壊死はまだしていないようですね」

「それなら、なんとかなるかもですね」


 最悪の事態は逃れた。

少しだが、助かる希望が見えてきたのだ。


「全身麻酔以外のものから試してみましょう」


 とはいえ、全身麻酔はリスクが大きい。


「分かりました」


《医療魔法・調剤》


 ラースは吐きたくなる薬を生成する。

それを注射して、飲み込んだ肥料を吐き出すように促す。

腸に溜まったものは、下剤によって排出するように試みてみた。


「うーん、これはだめかもしれませんね」


 数回試してみたが、出るのは少量のみである。

このままでは、何時間かかっても完全に出し切ることは出来ないだろう。


「もう一回、買主さんと話します。胃洗浄をやりたいと思います」


 ラースは、全身麻酔のリスクよりこのまま時間が経過して、消化器官が壊死してしまうリスクの方が大きいと判断した。

胃洗浄をするには、飼い主さんの許可が必要なのである。


 ラースは再び、飼い主さんと向かい合う。


「今、薬での治療を試みたんですが、正直これ以上このままという状態の方が危険かと思います。本当に注意しながら、麻酔かけて胃洗浄した方がいいのかなとは思うんですが、よろしいですか?」

「分かりました。ラース先生にお任せしたいと思います」

「かしこまりました。万全な体制でやらせて貰います」


 飼い主の承諾はもらった。


「よし、胃洗浄しましょう」


 全身麻酔のリスクよりも、症状の悪化の方が危険である。


《医療魔法・調剤》


 医療魔法によって、麻酔薬を生成する。

それを慎重に注射していく。


 麻酔が効いたタイミングで、新たな魔法を展開する。


《医療魔法・洗浄》


 一粒でも多く洗浄することを意識する。


 そして、処置を続けることおよそ1時間が経過した。

大量の土や肥料を洗浄することに成功した。


 まだ、腸や胃に残っている土は、食事療法ということになるだろう。


 懸念していた全身麻酔からも無事に覚めてくれた。


「院長、この子助かりますかね?」

「そうですね。あんまり楽観的なことは言えないですけど、五分五分って感じですかね」


 できるだけのことはやった。

しかし、体力の消耗があまりにも激しい。

まだ、予断を許さない状態だ。


 今日は入院ということになるだろう。


 ♢


 

 数日後、消化器官が壊死寸前だったワンちゃんは無事に回復し、退院することになった。


「先生、本当にありがとうございました」

「いえ、元気になってよかったです。お大事になさってください」


 この時、ラースの頭の中には新たな計画が出来上がっていたのであった。

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