第37話 緊急外来

 オーランドの街に無事に戻ってきたラース。

今日もラースは病院勤務を行なっていた。


「院長! 緊急の患者さんです!!」


 もう少しで診察時間が終わるという時、アリアが大型犬を運び込んできた。


「うちで病院3軒目だそうです」

「受け入れましょう。でも、なんでそんなにたらい回されているんですか?」


 動物病院をたらい回しにされるという事は、あまり無いことだ。

この近くの病院をたらい回しにされたということは、相当な時間が経過しているのだろう。


「何でも、他の病院では手に負えないとかで」


 症状に気づいた飼い主は、かかりつけの動物病院を3件回ったが、原因が突き止められなかった。

適切な治療を受けられずに、2日が経過してしまったそう。

3件目の病院でラースのことを紹介されたとのことだった。


「誰の紹介ですか?」

「隣街のミズキ先生ですね」

「ミズキ先生でも原因が分からないんですか……」


 ミズキ先生は地域に根付いた医療を目指す、名医である。

ラースも何度か顔を合わせたことがある。


「問診票見せてください」

「これです」


 ラースは問診票を見て、症状を確認する。


「嘔吐に、血尿、立てなくなった、ですか。飼い主さんはなんて?」

「多分、庭の植木の肥料を誤って食べたかもしれないとの事です」

「分かりました。見てみましょう」


 大型犬を診察台の上に寝かせる。


《医療魔法・スキャン》


 ラースは腹部の状態を確認する。

嘔吐や血尿の原因が分からなければ、治療することが出来ない。


「嘘でしょ。全てに溜まってますね。これは、土か肥料ですね」


 これでは、消化管が壊死している可能性もある。

しかし、これだけでは判断出来ない。


「血液検査もしてみましょう」


 ラースは採血を行う。


《医療魔法・分析》


 血液の状態がラースの頭の中に流れ込んでくる。

ラースは一つの可能性を見出していた。


「深刻ですね。ちょっと、飼い主さんと話します」


 消化管の状態は想像以上に悪い。

それでも、飼い主さんに全てを伝えなけれればならない。


「こんにちは。どうぞおかけ下さい」


 飼い主さんは、まだ若い女性だった。


「獣医師のラースと言います。今、ワンちゃんの状態を見させて貰いました。検査した結果、中毒性の腎不全を起こしている可能性がありますね」


 ラースの説明を飼い主さんは頷きながら聞く。


「胃洗浄や腸洗浄という選択になるかと思います。しかし、その場合全身麻酔が必要になります」


 胃洗浄をするにも、全身麻酔をかける必要がある。

しかし、今の状態で全身麻酔をかけるのは、リスクも大きい。


「今の状態で全身麻酔をかけるとそのまま亡くなってしまう可能性もあるのと、それをしても厳しい結果になる可能性の方が高いですね」


 その説明を聞いて飼い主さんは涙を流す。


 胃洗浄などで、異物を取り除いたとしても、今までのダメージで消化管が壊死をしていると、助かる見込みは少ない。


「それでも、できることは全部やってあげたいです」

「かしこまりました。全力を尽くします」


 ラースは治療室へと戻るのであった。

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