第30話 伝説に消えた名医
ローラン国王陛下との謁見が終わり、ラースは屋敷へと戻った。
「もう、オーランドへ戻るのか?」
屋敷に戻ると父から聞かれた。
「はい、あそこには私のことを待っている患者さんたちがいますから。でも、その前にお祖父様のお墓参りをして行こうと思います」
「そうか。それは父さんも喜ぶだろうな」
またしばらくは王都に戻れないだろう。
一度、ちゃんと祖父に報告をと思っていた。
「私も、一緒に行ってもよろしいですか?」
クレインが言った。
「もちろんです。一緒にいきましょう」
王都の屋敷から、馬車で10分ほどの霊園に祖父は眠っている。
ここは、高台にあり王都の景色を一望することができる。
きっと、祖父はここからずっと見守っていてくれたのだろう。
「お祖父様、お久しぶりです」
そう言って、ラースは花を墓の前に置いて手を合わせる。
そして、カバンの中からお酒とグラスを取り出した。
「お祖父様が好きだったお酒です」
ラースは祖父が生前、好んで飲んでいたウィスキーを置いた。
「私、今はオーランドの街で獣医院を開業しました。それに、お祖父様がずっと会長をやっていた、獣医師会の会長に私もなりましたよ」
ラースはこれが報告したかった。
祖父がローラン獣医師会の会長に就任してから、この国の獣医学は10年進歩したと言われている。
その祖父の功績が大き過ぎた為か、獣医師会会長の後任は中々決まらなかった。
しかし、会長の座に相応しい医師がやっと現れた。
「なので、お祖父様は安心して眠っていてください。あとは、私がちゃんと全部引き継ぎますから」
その時、ふわりとした心地良い風がラースの前髪を持ち上げた。
それは、まるで祖父が返事を返してくれたように感じた。
「それと、紹介しますね。クレイン・オーランドさん、私の婚約者です」
「ベルベットさん、初めまして。クレインです。あなたのお孫さんは私が必ず幸せにします。なので、見守っていてください」
そう言って、クレインも手を合わせてくれた。
「お祖父様に挨拶もしたことですし、帰りましょうか。オーランドの街に」
「そうですね。帰りましょう。それにしても、やはり生前にお会いしてみたかったですね。伝説の獣医師に」
あの街には、私の帰りを待っている患者さんがいる。
医者にとって、患者さんは何千何万のうちの一人かもしれない。
しかし、患者は違う。目の前の医者が全てなんだ。
いつの日か、祖父が言っていた言葉だ。
ベルベット・ナイゲール。
かつて、伝説の獣医師と呼ばれた男は今、静かに眠っている。
孫娘、ラース・ナイゲール。
新たな伝説を残す獣医に未来を託して。
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