第17話 お誘い

病院での業務を終えると、辺境伯の屋敷へと戻る。


「ただいま戻りました」

「やあ、おかえり」


 今日はクレインが出迎えてくれた。


「クレインさん、今日はお早いんですね」


 クレインは、オーランド家の次期当主である。

忙しい身なので、ラースより先に帰っているのは珍しかった。


「父上から休むように言われてしまいましてね。お前は働きすぎだと」

「そうなんんですね。私から見たら、バーロン卿の方が働いているように思えますがね」


 本当に、いつ寝てるのかと不安になるほどにずっと働いているイメージがある。


「私もそう思ったのですが、父上はあれでも手を抜くとことろは抜いているらしいのです」

「そうなんですね。全然そんな風には見えませんのに」

「本当に凄い父ですよ。私が後継というのが不安になってしまいますよ」

「私は、クレインさんも十分に素質があると思いますよ」


 人の心を繋ぎ止めるのは、力では無い。

そこに、信頼があるかないかが大きく左右して来る。


 ここの領民の様子を見るに、クレインも十分に領主になる素質があるように見える。


「ありがとうございます。そうだ、ラースさん明日は病院お休みですよね?」

「ええ、明日は休診ですね」


 ラースの病院は週に1日は休診にし、もう1日は午前中のみの診療としている。

それでも、緊急の案件にはできるだけ対応しようとは心がけている。


「では、明日一緒に街に行きませんか? ラースさんもずっと病院業務で忙しかったでしょうから、息抜きにもなると思いますし」

「いいんですか? せっかくのお休みなのに」

「もちろんです。私にとって、ラースさんと過ごす休日が一番の癒しですから」

「あ、ありがとうございいます」


 そんなに真っ直ぐにみられると照れてしまう。

イケメンというだけでずるいのに、その発言はもっとずるい。


「では、行きたい場所があったら考えておいて下さい」

「分かりました」

「じゃあ、明日楽しみにしていますよ」


 そして、ラースは自室へと戻る。


「何着て行きましょう」


 ラースは手持ちの服をベッドの上に並べる。

男性と出かける経験など、父以外ほとんど無い。

クレインの好みもよく分かっていないので、ラースは悩んでいた。


「ラース様、お茶とお菓子をお持ちしました」

「ちょうどいい所に来たわ!!」


 紅茶を持ってきてくれたのは、ラースのお付きのメイドである。


「なるほど、クレイン様とデートに来ていく服に悩んでいると」

「やっぱり、デートですよね」

「そうですね。これと、これを合わせてみたらどうですか? 明日は少し寒くなるようですから防寒もしっかりと」

「いいですね。さすがです!!」


 クレインの瞳と同じ色のワンピースに白のコートを合わせたものにした。

あまり、貴族らしい服装をすると逆に目立ってしまうので、このくらいがちょうどいいだろう。


「お役に立てて何よりです。明日は楽しんでいらしてくださいね」

「ありがとう」


 ラースは紅茶を飲み干すと、ベッドに横になるのであった。

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