婚約破棄と暴虐令嬢
山田 勝
婚約破棄と暴虐令嬢
貴族って、もう嫌です。
ええ、婚約破棄をされました。
大勢の方々が見ている前で宣言をされましたわ。
理由?義妹を虐めているって言っていたけど・・・
身に覚えがないのです。
婚約者、義妹、義母、知らない人です。
そうですね。分かりづらいですよね。
私の父は商会を営んでいました。
ええ、小さいけども、それなりに儲かっていました。領地なしの男爵位を授かりました。
父が馬車の事故で亡くなり。
悲しみにくれていると、喪が明けたくらいに、パーティーの招待状が来ました。
後ろ盾になって頂いている家名でしたから、行かないわけにはいきません。
そこで、
『クララ、婚約破棄をする!』
『どなたですか?』
『ロバートだ、すっとぼけるな。慈しむべき義妹を平民だからと、ひどいイジメをしたな。証拠はそろっている!』
と大声で言われて、
『グスン、グスン、ロバート様、平民で至らない義母が悪いのです。どうか、穏便に』
『キャサリン、お義姉様と仲良くなりたかったのに、平民だから礼儀覚えてなくて、ごめんなさぁい』
『全く知りませんわ。皆様、どなたですか?』
『すっとぼける気か?』
すると、全く知らない使用人達が出てきて、
『お嬢様、見苦しいですよ』
『私たちが証人です!』
『え、え?』
『ヒドイ、クララ様はカゲでこんなことを・・・』
『そんな性根で平民相手に商売をしていたのか。これは考え直さないといけないな』
パーティーに集まっているのは、裕福な平民が多いです。
この騒ぎに、パーティーのホストであるクズル子爵様が出てきて、裁定を下しました。
『う~む。勢い盛んなダン男爵家の裏でこんなことが、これは、義妹が家督を継ぐのが適任だな。クララ嬢は、平民を差別するとは、平民あってこその貴族、子爵家でメイド見習いとして働くが良い』
『そんな』
しかし、連れて行かれるところ。お付きのメイド、アンのとっさの判断で、
『お嬢様、おかしいです。逃げましょう』
何とか厠の窓から逃げましたわ。
ええ、クズル子爵様は、女性にだらしない方で、愛妾が沢山いると、後に聞きました。
今は、アンと共に暮らし。
アンは、ウェイトレスで、私は人目に付かないように内職で、お針子の仕事をもらっています。
お金が貯まったら、どこか遠い所に行きたいですわ。
・・・・・・・・
「ふ~ん。だから、最近のダン商会のドレス、ダサダサになったのね。腕の良いお針子が店の誘いを断り内職していると聞いたから、ここに来たのよ」
「ええ、お嬢様が着てらっしゃるドレスは私が昔デザインしたものですわ。大切に着て頂いて嬉しいですわ。
平民用のドレスに特化しました。亡きお母様と私のデザインでしたの。父が販路開拓専門で、本当に理想の家族でしたの。自慢になりますが、高位貴族のお忍び用に選ばれるほど・・・」
ここで、違和感が浮かぶ。クララは身上を話した令嬢を改めてじっくりと見つめた。
年は12歳くらい、黒髪、碧眼、やや釣り目、冷たい雰囲気であるが、気品を感じる。
メイドを一人と従者が一人、私服の騎士?護衛だ。そして、おっさん一人。この顔は見覚えがある。内職の仕事を世話してくれた裏組織のドン。
もしかして、高位貴族?
この地で最も高位貴族は辺境伯?
まさか。そのご令嬢がわざわざこんな安アパートにくるわけがない。
令嬢は、
「この件に関しては遺憾の意を表明します」
とクララに声を掛け。そのまま去った。
「行くわよ。フランキーは私のお父様役、ギリースは、適当な時間に騎士を連れて来て、場所はダン商会の本店よ。ケリーは、情報収集を御願いします」
「「畏まりました」」
「あの、私は27歳ですが・・」
「そんな髭ボウボウで凶悪ズラの27歳はいないわよ」
☆☆☆ダン商会本店
「お客さまぁ、キャサリンがデザインをしたドレスでぇす!」
「・・・え、とピンクじゃないドレスはありますか?」
「ピンクが良いんじゃない!冷やかしなら帰ってよ!!!」
「キャサリン、売れないね」
「お針子が悪いのよ!私のデザインは完璧なんだから!」
カラン
あの令嬢が来店をした。後ろには父親役のフランキーがいる。
「ちょっと、ここのドレス、全部出しなさい。全て見るわ」
「子供用のドレスはおいていないわ。特注になるけど、お値段はお高くなりまぁす」
「子供?・・・・」
「お嬢、いや、エリ、怒らない。怒らない」
「変ね。前は置いてあったのに、おかしいわね。探すわ」
「ちょっと、店の奥に入らないで下さぁい!」
「おい、ガキ、大人を舐めるな」
ドン!ドン!
「キャア」
「うわ。何だ!」
まるで、二人は自ら尻餅をついたように見えた。
見る人が見れば分かるが、令嬢は、闇魔法で手を作り突き飛ばした。
令嬢は奥に入り。
タンスの戸を開けて中を見たり。
書斎をあさる。
「ないわね。あら、この金庫が怪しいわ。闇魔法マックスで開くかしら。エイ!」
ガン!
闇の手で扉がこじ開けられる。
「あら、この書類にドレスの行き先が書いてあるかもしれないわね」
「お嬢、白々しいです。もう少し、その私と店員が話している隙にこっそり忍び込むとか」
「あら、白昼堂々襲うわけにはいかないわ。これが、私流、令嬢名探偵よ」
「え、なら、死人が出るのですか?やめましょうよ」
「よく知っているわね。でも、殺すのは犯人で名探偵は解決する方よ」
「お嬢、それも前世の記憶ですか?」
令嬢を誰も止められない。
少しでも、触ろうものなら、
「キャー、不埒者」(棒読み)と叫んで闇の手で、突き飛ばす。
並の用心棒では、彼女の闇魔法にかなわない。
「一体誰だよ!クズル子爵様が黙っていないぞ」
「そう、呼んできなさい」
彼女の正体は、野次馬たちは知っていた。
ガヤガヤ~
「おい、聞いたか?令嬢が、ドレスが気に入らないからって、暴れているって」
「誰か助けてぇよ!お礼を弾むから!」
「やだよ。こんなことをするのは、極悪令嬢エリザベスだよ」
「そうだよ。忌み子で、一人領地に残された。領主全権委任状があるから、やりたい放題だよ」
「だけど、景気は良くなったわ」
「ヒィ、エリザベス!なんでぇここに来るのよ!あ、騎士様だわ!あの令嬢を止めてください」
「御願いします」
「この建物に入っていいですか?」
「入って、早くやっつけてよ!」
「傾注!占拠者から許可をもらった。今から、アレクサンドル辺境伯令嬢エリザベス様の捜索を実施する。この建物で迷子になられたとの一報があった。一班一階!二班二階!」
と見当違いの命令を下し。
騎士たちが突入する。
「お嬢様はどこだ!」
「お、この書類に、お嬢様の行き先が書いてあるかもしれない!」
ガサガサ、
騎士達も書類をあさる。
「お嬢様、そこにいたのですか?帰りましょう」(棒読み)
「ええ、この書類にドレスの行き先が書いてあるかもしれないから持っていくのよ」(棒読み)
書類を持って帰った。
「あの、私が父親である設定は??」
「・・・・・次に生かすわ」
「それ、絶対に生かされないやつでしょう!」
☆クズル子爵家
「旦那様!キャサリンの店が襲撃されましたわ。そして、逮捕されましたわ。すぐに、衛兵隊に掛け合って下さい!」
「ほお、このクズル子爵家に刃向かうとは、どこの勢力だ」
ワシの愛人、アマンダの子、キャサリンに貴族位を持たせたくて、ダン男爵家の娘をはめた。
謀略!これは、貴族の決闘だ。
男爵といっても貴族モドキに証拠は入らない。証言だけでいい。
貴族モドキの小娘を一人はめるなんて、何てことはない。
しかし、クララを逃したのは欲しかったな。
あやつの裁縫の腕だけは、欲しかった。
それに愛人にしたかった。
馬車を細工して、事故に見せかけてダン男爵を殺害し、偽の婚約破棄を仕向けたのだ。
「野次馬たちは暴虐令嬢エリザベスと言っていましたわ」
「何?あのデモの民衆にファイヤーボールを放つ基地外か?」
・・・奴は、衛兵隊と行政庁のトップが賄賂を取るからと処刑した。
全権委任状を盾にやりたい放題だ。
今じゃ。賄賂でどうこうできなくなった。貴族のくせに貴族が生きにくい世にしている。おかしい。
「旦那様、騎士団と衛兵隊が来ましたわ。偽の婚姻届と婚約届、文書偽造の疑い濃厚とありますわ。どうしましょう」
「アマンダ、大丈夫だ」
しかし、クズル子爵は、
「おお、アマンダよ。何て言うことをしたんだ。さあ、衛兵隊長殿、連れて行って下さい!」
「ヒィ、そんな!」
トカゲの尻尾切りに走った。
しかし、衛兵隊長の後ろから、エリザベスが、ドン!と現れる。
「ちょっと、主犯は、貴方よ」
「貴族は証拠がなければ身柄の拘束は出来ませんよ」
「証言があるわ」
エリザベスが登場させたのは、ダン男爵家の商会本店で働いていた者たちだ。
乗っ取った際に解雇した人々だ。
口々にロバートとクララの婚約そのものがなかったと証言をした。
「そ、そんな。証言だけで、貴族を逮捕できませんよ」
「え、子爵なんて、平民と同じなのですけども、証言だけで、クララを有罪に裁定したのだから、貴方も有罪よね」
「そんな。無体な!そうだ。全財産を差し上げます。娘がいます。ピンクブロンドの容姿端麗ですぞ。政略としての駒に最適・・・・」
ボキッ!
「ギャアアアアーーーー、アギョが、ウゲ」
闇の手でアッパーカットをした。クズルの顎は割れた。
「お前も、娘を物として扱うのね」
「お嬢様・・・」
「お嬢!」
その後、子爵は爵位剥奪、賠償奴隷として売られた
アマンダ、ロバート、キャサリンは共犯者として牢屋に入ることになる。
「エリザベス様!クズルの隠し子がいます」
「隠し子はほっときなさい。一週間だけの扶持を持たせて・・・って、ピンクブロンドと言ったわね。会います。連れてきなさい」
・・・血がうずく。私の深層意識に暴虐を働けと訴える闇がある。どうやら、私は悪役令嬢らしい。
平民や低位貴族に暴虐を働く役割、ゲームの強制力があるらしい。
なら、悪に対して暴虐を働けば、気が晴れる。
幸い、ウミは吐き出して欲しいと向こうからやってくる。
尽きることはない。
ここは、何かのゲームか小説の世界らしい。
「ヒィ、許して下さい。何でもします!」
「フ~ン、なら、私のレディースメイドをしなさい。お給金は払うわよ」
「ヒィ、分かりました」
「ねえ。貴女、この世界について、何か知らない?」
「グスン、グスン、女は馬鹿な方が良いって言われて、簡単な文字の読み書きしか教えてもらていないのです」
「そう、なら、使用人学校に・・・いえ、私と一緒に貴族学園に行くのだから、家庭教師をつけます」
「えっ」
ピンクブロンドというワードにピンと来た。
この子も役割に目覚めるかもしれない。
☆☆☆ダン商会本店
「あの、フランキー親分様、有難うございます。また、ドレスのお店が出来るなんて、嬉しいです」
「賠償金まで、取って頂いて」
「「「有難うございます」」」
「俺がやったんじゃないよ!」
「何かお礼をさせて下さい」
「そうか。なら、御願いがある。ほら、出てきて、挨拶だ」
「・・・マリアです。初めまして」
「実は、孤児を一人、ダン男爵家の家門に入れて欲しい。
この子は高貴な方のお屋敷に奉公に行くことになった。身分が必要だ。養子縁組をして欲しい。え~と、この場合、クララさんの養子か?いや、難しいことは分からないから、法律家に任せる。その費用も心配しないでいい」
「まあ、可愛い子、私はクララ17歳よ。貴女はおいくつ?」
「12歳です・・」
「親分さん。こういう縁組みは大歓迎ですわ。さあ、マリアちゃん義姉妹になるのだから、この家を自分の実家と思うのよ」
「はい!」
☆☆☆繁華街フランキー商会
「お嬢、何で、ご自分の手柄なのに、私がやったように仕向けるんですか?
これも、『法で解決出来ないことは、正義のアウトローの出番よね』ですか?」
「それもあるわ。貴族は、少しでも善人だと思われたら、つけこんでくる輩が出てくる。
それに、ウミをあぶり出すには、暴虐令嬢と思われているぐらいが丁度いいのよ」
「お嬢様は、本当に12歳ですか?」
「フランキーの27歳の方が信じられないわよ」
こうして、ピンクブロンドの男爵令嬢が誕生した。
まだ、彼女の役割は不確定だ。
役割は、彼女自身の選択によるべきとエリザベスは考える。
婚約破棄と暴虐令嬢 山田 勝 @victory_yamada
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