第60話 罪の意識
【前話までのあらすじ】
エレンフェの居る中央の党へ『鯨の入り口』について聞きにいったライスたち。しかし、突然、バルク、オルサ、カランドに襲われる。ミーアの敵討ちと闘いに挑むが、アシリアの顕現した力とギガウの精霊の力の前には賢者たちの力は及ばなかった。
◇◇◇
【本編】
「姉さん、何でそうまでしてカランドを庇うの?」
アシリアは必要以上にカランドを庇うエレンフェに憤りを覚えた。
「アシリア.. みなさんには私がこの国に来た当時のことをお話しいたしましょう。付いてきてください」
エレンフェは塔に通じる扉を開いた。
塔の中は異様な魔力に満ちている状態だった。
その最上階のテーブルにティアール素材の構造物が置かれていた。それは元素の融合をあらわす幾何学的な形をしている。構造物には棘をもつツル植物が絡みつき、先端にある5つの蕾には上位精霊を閉じ込めた魔石がはめ込まれていた。
「これが今この国の結界を守る『精魔の光棘砦(せいまのこうぎょくさい)』です。ハーフエルフの錬金術を駆使した究極の魔道具です」
不思議なことにこの魔道具の魔石からは、他で見てきた「牢獄の魔道具」のような張り詰めた気配を感じることはなかった。
「私とアアルクがこのリキルスに来た時、既にこの器具は完成していました」
「最初から? じゃ、初めから精霊の入った魔石を魔道具に使おうと考えていたってこと?」
「そうです。彼らには最初からわかっていたのです。死んでしまった古の精霊たちと同等の力を得るにはこの魔道具が必要なのだと.. アアルクは深い後悔にかられました。『自分が君を騙したのも同じだ』と、何度も私に手をついて詫びる毎日でした。同時にそれはカランドへの憤りとなったのです」
「姉さんはその時に帰るべきだったんだ。リキルス国の問題は自分たちで解決すべきだと」
「そうかもね。ごめんなさい、アシリア。 でも..」
「そう。でも、姉さんにはそんなことできない。わかってるよ」
アシリアは振り絞った声で言った。アシリアには優しいエレンフェが人を見捨てられる正確ではないのがわかっていた。それ故に悔しかったのだ。『自分ならよかったのに』と..
「私の行為は森の巫女として許されることではありません。この場所で竪琴を奏で続けることが私のせめてもの贖罪なのです」
この魔道具の精霊が穏やかなのは、毎日欠かさずエレンフェが奏でる竪琴の音で穢れが排除されているためだった。
「しかし、アアルクは違いました。『君はこの国から離れるべきだ』と彼は私に何度も説得しにきました。そしてあの晩、事件が起きてしまったのです」
***
—この国の6年前(現世では60年前)—
「国の危機とは言え、カランド、お前はこの私を欺いたのだ。私はエレンフェを巻き込んでしまった.. 私が彼女を騙したのと同じなのだ。 わかっているのか!」
「 ..申し訳ないと思っています。こんなことになるなんて..」
「戯言を言うな! お前らは最初からそのつもりだったくせに。錬金術で魔道具まで作っていたではないか!」
アアルクはカランドの胸ぐらをつかんで詰め寄った。
「違うんです。カランドは反対していたの。結界の維持に魔道具を使う以外はないと提案したのは私たち兄妹全員の考えなの」
その場にいたミーアはカランドを庇った。しかしその言動はアアルクの怒りの矛先をミーアに向けてしまっただけだった。
「ならば、お前も責任をとれ。そうだ、お前らが1人でも欠ければ魔道具は役に立たない。エレンフェがここに残る必要もなくなる!」
カランドがミーアに斬りかかろうとした時..
「御免!」
カランドの剣がアアルクの脇腹を貫いた。
「カ、カランド.. き.. さま」
アアルクの力が抜けた膝は折れ、床石が赤く染まっていった—
**
「その罪の意識がカランドの心をボロボロにしていったのです。カランドの枕元に悲しみに暮れるアアルクが現れるというのです」
『アアルク王が! アアルク王がぁ.. レミンよ.. すまない。すみませんでした..』
「カランドはもともと正義感の強い性格をしていました。そのため、アアルクを欺き命まで奪い、何よりもアアルクの娘レミンに対して罪の意識を抱いていました。なぜなら、カランドはレミンに約束をしていたのです」
「約束?」
「はい。最愛の父をレミンの元へ帰すことを」
そこにいる皆が言葉を失うと魔道具の唸る音だけが空間を支配していた。
「ところで、亡くなったアアルク王はどこに埋葬したのですか? ミーアがアアルク王の亡骸はエレンフェさんがどこかに埋葬したって」
「はい、私がある場所へ。でも、なぜ?」
「実は、私たちアアルク王に会ったんです」
「え??」
ライスはキャスリン国に現れたアアルク王について全てを話した。そのアアルク王の正体はレミンの願いを叶えた『月の涙』であることを。
・・・・・・
・・
「そんなことが.. 世界にはまだまだ私の知らない不思議なことがあるものですね」
「ですから私たちはアアルク王が身に着けていた『お守り』を持ち帰らないといけないんです」
「わかりました。では、明日そこへ案内いたしましょう」
「それと姉さん、姉さんはリキルス国から抜け出す方法を知っているのでしょ? それを教えて欲しい」
「そんなことまで知っていたのですね」
エレンフェは恥じるように返事をした。
「エレンフェさん、それはたまたま海賊の情報から知ったことだったんです。でもきっとそれは偶然じゃない。エレンフェさんのアシリアを呼ぶ想いが私たちを導いたんです」
エレンフェの手を取ってライスはまっすぐ彼女の眼を見つめた。
「 ライスさん、あなたの眼はどこか懐かしい方を思いださせますね」
「懐かしい??」
「ええ、勇気を思い出させてくれる眼です。 ..わかりました。 あなた方にお教えいたします。 ある時刻にラナ村から北の塔に集まってください」
ライスたちはエレンフェに促され一旦帰ることにした。
エレンフェはベッドで目を覚ましたバルクとオルサにスープを優しく手渡した。それはエルフ族の定番のスープであったが、そこには彼らの母ルミラウェの温もりがあった。
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