第41話 秘密の細道
【前話までのあらすじ】
キャスリン城でのレミン女王への謁見はライスたちに大きな成果をもたらした。キャカの種、リキルス国への行き方、『形のない宝石』の所在の糸口をつかむことが出来たのだった。
◇◇◇
【本編】
宿屋のモンタジュに帰ると、さっそくマイル・レッタに城内での出来事を説明した。
「なるほど、『キャカの種』は城内あるのか。じゃ、そっちはギガウ、アシリアそれとミレクに任せてもいいんだな」
「ああ、任せてくれ」
「ところでギガウ様、『キャカの木』とは何なのですか? なぜ、この『キャカの木』が水の国リキルスへ行くのに必要なのですか?」
「そうだ。それ、ミレクだけじゃなく、私とライスにも教えて」
リジの言葉にライスも激しくうなずく。
「必要なのは枝よ。そのキャカの枝はくわえるだけで、水の中で呼吸をすることが不思議な木なのよ。私たちエルフ族でも知る者は少ないの。でも、水の国リキルスに行くには必ず必要なものなのよ」
「なに、それ。楽しそうだね」
好奇心の塊であるライスの顔がキラキラしていた。そんなライスを見るとアシリアの口元がゆるんだ。
「ライス、私たちがキャカの木を育てるから楽しみに待ってなさい」
「うん」
屈託のない大きな返事をライスは返した。
「じゃ、あとは『形のない宝石』のことだな。俺は密偵であると同時に王家のを陰から警護をしていた存在だ。城内全ての部屋を把握している。王の寝室にある隠し部屋までだ。お前たちが映像で見たものを言ってみてくれ。それで、『形のない宝石』がどの部屋にあるのかわかるはずだ」
それにはリジが答えた。
「あれは、本棚だったよ。それもかなり良い本棚だった。並んでいる本は童話が多かった。私が小さい頃に読んだ本もあった。そう、あれは子供に読み聞かせるための本よ」
「それに絵があったよね。大きな紙に書かれた水彩画でお父さんとお母さんを描いた絵で凄く温かい絵だった」
「そうか。そこはレミン様が子供の時に使っていた部屋だ。レミン様は子を持たなかった。だからその子供部屋は幼いレミン様が使っていた頃のままなんだ」
「じゃ、そこに宝石があるのね。でも、変だよね」
「ああ、確かにな」
ライスの疑問にマイルもうなずいた。
「何が?」
「だって、リジ、使っていない部屋なのに、部屋の中が見えたよ。それってさ、灯りが付いているって事じゃない?」
「あ、そうか。確かに変だよね」
「 ..わかった。今夜にでも、俺が城内に潜り込んでみよう」
「だめだよ! 抜け忍としてマイル、追われてるんでしょ? もし、捕まったら..」
「俺を誰だと思っているんだ。様々な国に潜り込んできた男だぜ。それにキャスリン城は俺の庭のような場所だ。 なぁに、子供部屋の様子をちょこっと見て来るだけだ。 それにもし宝石とやらがあれば持ち帰ってやるぜ」
「でも..」
「ライス、これは好機なんだ。大丈夫さ、ヤバそうなら逃げ帰る」
「うん」
この時、心から自分を心配するライスを見たマイルは、ロス・ルーラの気持ちがわかったような気がした。
「では、ギガウ様、アシリアさん、さっそくキャカの木を発芽させちゃいましょう。私が与えられた畑へ案内いたします」
ミレクを先頭にギガウとアシリアは宿屋を出た。
「リジ、私たちはどうしようか?」
「まぁ、何もやることが無ければ、鍛錬をするしかないんじゃないの?」
「お前らは真面目だねぇ。俺はひと眠りするぜ」
そう言うとマイルはベッドに寝っ転がった。
・・・・・・
・・
夜も静まり返り、夜行性の動物たちが動き出す頃、マイルは城内に忍び込んだ。
あれほど追っ手から逃げ回り、昼には城へ行くのを拒否したマイルだが、8年ぶりの城内に実家に帰ったような懐かしさを覚えていた。
マイルは自分が良く使った城の秘密の細道に入った。この細道は王家が敵から身を隠すための道だ。近衛兵ですら知らない。
マイルは2つの石を奥に押し込むと、現役時代に自分が作った道が姿を現した。
その小さな入り口に肩の関節を外して入った時だった。まだ、入りきらない脚に激痛が走った。
「(くっ、やられた)」
それは海のドラグミオという魚の皮膚から抽出した強い毒が塗られたナイフが突き立てられたのだ。
追っ手は来ない。追う必要もないのだ。これだけで致死するからだ。
マイルの脚に突き刺したのはマイルの後釜の密偵の類だろう。しかし、この密偵が新米だったのは幸運だった。
忍び込んだのが元密偵のマイルだと気が付いていなかったのだ。密偵は扱う毒の耐性を高める訓練をしているのだ。さらには毒の調合が未熟だったことも幸いしていた。
マイルはすぐに持参した解毒剤を服用するとレミンの子供部屋へ辿り着く事が出来た。致死性は弱まったと言っても毒は毒だ。高熱でふらつくマイルは何とか部屋に明かりを灯した。
リジが言った通りの本が並ぶ本棚と先代の王と王妃が微笑む水彩画。この景色が見える反対側に『形のない宝石』があるはず。
「さ..さて、ご対面と行こうか、宝石ちゃん」
マイルは振り返った。そしてマイルは宝石が変えた姿を見たのだ。
「そ、そんな馬鹿な!」
そのままマイルは気を失ってしまった。
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