第39話 50年前の足跡

【前話までのあらすじ】


スレイの事情を聴くとアシリアとギガウも協力を約束してくれた。アシリアとギガウはライスたちとは別行動をし、水の国リキルスに行くために必要となるキャカの木の手掛かりを探しに行く。思いもよらずにマイルから有力な情報を得ると西の海岸線の蝋燭岩を目指すのだった。◇◇◇


【本編】


 三本足の馬ティンラに跨ると、ライスたちはキャスリンの島国を一周することにした。今は薄い反応を示す秘想石に新たな反応を期待してのことだった。


 ティンラの速さは馬など及びもしないものだった。


 「この子たち軽い感じで走っているけど、本気だしたらどれくらい速いのかな? 風かな? 風の速さくらい出るのかな?」


 「やめてよ、ライス。間違ってもそんなこと命令しないでよね」


 ライスとしては『最速で!』と頼みたい所だったが、目的は秘想石の反応を見ること。ライスは自分のやまない興味を無理やり胸に押し込めた。


 ところどころでティンラから降りて、慎重に『秘想石』の反応を確かめたが、どの地点でも『秘想石』はぼんやりと光っているだけだった。


 むしろ光だけだったら島の中央にある城を支えるツルツル岩の方がよく光っていた。


 結局、島を一周しても、『秘想石』の反応に変化は見られなかった。


 「どこまで行っても『秘想石』の反応は一緒だった.. 『形のない宝石』はこの国にあるはずなのに.. いったいどこにあるのかなぁ」


 「待てよ.. どこに行っても同じか。 そうか。そういうことかもしれない」


 ライスからでた何気ない愚痴を聞くと、マイルが何かに気が付いたようだった。



 一方、ギガウとアシリアは街で馬を借りると西の門から海岸線に出た。そこから北上していくと海に建てられた塔みたいな「蝋燭岩」が姿を現した。ギガウは馬を降りると自分の感覚を研ぎ澄ました。それは50年も前に遡る大地に残した父コラカの残り香を探すためだった。


 コラカが『キャカの種』を発芽させようとしたのならば、必ずその周辺に縄張りを張っていたはずだ。すでに50年を過ぎようとしていたが、チャカス族の張った縄張りは気配として残るのだ。


 馬の背からアシリアがギガウに質問をした。


 「ギガウ、私はエルフだから人間の出生に関してはよくわからないのだが、お前はまだ30手前だろ。お前の父親が80過ぎで亡くなったのなら、お前は父親の晩年に授かられた子供だったのだな」


 「 ..」


 「どうした、ギガウ?」


 「アシリア、俺の父はずっと独り身だ。つまり、俺は父コラカの実の息子ではないのだ。父の家系はその昔、王直属の—」


 その時、ギガウは足に父コラカの縄張りの気配を感じた。それは本当に薄いもので、極めて集中しなければ見失うほどのものであった。


 「見つけたぞ、アシリア。父の縄張りに入った」


 海を見ると蝋燭岩も近くにある。


 「ここのどこかに『キャカの種』が埋まっているのか? だが、どうやって見つけるつもりなのだ?」


 「大丈夫だ。ここのどこかに父が種に直接精霊の力を送り続けた場所があるはずだ。砂漠で休憩するために急成長させたミツメ樹を覚えているだろう? あれと同じことを父はしていたはずだ。気配が最も濃い場所を探そう」



 ギガウとアシリアはコラカの縄張りを端から探し続けた。だが夕方になってもその場所を特定できなかった。


 「いったいどこなのだ。その場所だけは気配が濃くなるはずなんだ」


 気が急くギガウの眼に傾き始めた太陽の日射しが入った。


 「 ..そうか。わかったぞ」


 ギガウは太陽を見ながら歩いた。


 「ギガウ、何かわかったのか?」


 「ああ、父は種に力を送り込みながら、見たんだ。蝋燭に火が灯る瞬間を」


 蝋燭岩の頂上に太陽が重って見える場所へギガウは移動した。それは波が強く当たる岸壁近くの場所だった。


 蝋燭岩に夕陽の火が灯る。すると遠くのツルツル岩から乱反射した光が辺り一面をゆらゆらと照らし始めた。


 その乱反射に砕け舞い上がった波しぶきがあたると、そこに虹色の炎が燃え上がったのだ。


 ギガウもアシリアもその幻想的な光景に言葉を忘れるほどだった。


 やがて夕陽が完全に海に沈む瞬間、弱々しく残った太陽の光が岩の頂上の深蒼岩に集められると、大地の一点を指し示した。


 「ギガウ! あそこ」


 「ああ、行ってみよう」


 両手を大地に着けながら父の気配を探るギガウだったが、何かを察すると静かに目を閉じた。


 「どうだ、ギガウ?」


 「ああ、今はっきりわかった。種は既に掘り起こされたんだ」


***

 —宿屋 モンタジュ—


 ギガウとアシリアが宿屋に戻ると、さっそくお互いの情報を交換した。


 「そうか、秘想石も空振りだったか」


 「いいや、空振りじゃない。わかったことがひとつある。まぁ、俺の憶測も含まれているがな」


 「なに、なに? マイル、何かわかったの?」


 「ああ、まぁ落ち着け、ライス。今回の島めぐりでお前の持つ秘想石はどんな状態だったよ?」

 

 「う~ん。ずっとぼんやり明るかったけど、それ以外何も変わらなかったよ」


 「そう、それは裏を返せば、秘想石は絶えず同じ反応を示し続けていたんだ。どの地点でもな」


 「何よ、もったいぶらないで早く言いなさいよ」


 リジがマイルをせかす。


 「ああ、つまりだ。どの地点でも同じように秘想石が反応していたということは、逆に『形のない宝石』がある場所を示していたことになるんだ。この島はほぼ円形だ。そしてどの場所からも必ず見えるものがあっただろう」


 「どこでも見えたのは高いツルツル岩.. そっか、中心! ツルツル岩の上にある城ね!」


 「そうだ、リジ。ここからは俺の憶測だが、秘想石が『形のない宝石』の周りの映像を映さないのは、あの城が立つ岩、ツルツル岩が妨害していると思うんだ。」


 「なるほど。さすがは元密偵のマイルだ。その分析力は凄いな。ならば、話は早い。俺は明日、マガラのユウラ王の書簡を持って城へ行こうと思う。みんなで行こう」


 ギガウが提案するとマイルは手の平でその提案を妨げるように断った。


 「すまないが、それは、俺以外で行ってきてくれ。抜け忍の俺は留守番がお似合いだ。わかるだろ? 俺はまだ生きていたいんだ」


 王家だけに伝わる「水の国リキルス」への行き方、そして「形のない宝石」の情報を城から見つけ出すことはできるのだろうか?


 砂の国マガラでの経験上、交換するものを何も持っていないギガウは不安を抱えていた。

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