真相1
翌朝私達が公園に行くと、一昨日と同じように久住さんがベンチに座っていた。
「久住さん、おはようございます。朝早くに申し訳ありません」
私が言うと、久住さんは「気にしないでくれ」と言って私達に座るよう促した。
「それで、今日はどういった話かな?」
久住さんが誰と目を合わせるわけでもなく聞いた。
「六十六年前の事件の真相についてです。単刀直入に申し上げます。久住さん、あなたは……事件の真相を、ご存じなのではありませんか?」
涼太君が口を開く。しばらく沈黙が流れた後、久住さんは、「ふー」と長い溜息を吐いて、ベンチの背もたれに身体を預けた。
「……君達二人は、どういう関係?」
唐突に久住さんが聞いた。
「恋人同士です」
涼太君が答える。
「結婚を考えてるの?」
「はい、結婚を視野に入れて交際しています」
涼太君の言葉に心臓が高鳴る。
「そう……大切にしなさい。私は……乃利子さんをあんな形でしか守れなかった。六十六年前、長岡を殺害したのは……私だよ」
私は、目を見開いた。
事件のあったあの日、久住少年が夕方『パラディソ』の前を通りかかると、人が言い争うような声が聞こえた。何事かと思って店に飛び込むと、カウンターの裏で長岡が乃利子を床に押し倒していた。
服を脱がされている様子は無かったが、乃利子が危ない事は一目でわかった。久住少年は、思わず棚の一番下のあったワインボトルを取り出して、長岡の後頭部を殴りつけた。
長岡は、「うっ」と呻き声を上げて、乃利子の身体の上に倒れ込んだ。乃利子は、何とか長岡の身体を押しのけると、長岡の名を呼び掛けた。
「……どうしよう、長岡さん、息してない……」
乃利子が、震える声で言って久住少年に視線を向けた。
「……乃利子さん、こいつに襲われそうになったんですか?」
「ええ、他の男と結婚なんて許さない、俺の物にしてやるって言われて……」
「こいつを殺した本当の経緯を話せば、乃利子さんがこいつと肉体関係を持ったと疑われるかもしれない。実際にはそんな事なかったとしても。……そうなったら、結婚の話も無くなるかもしれない」
「そんな……」
「……乃利子さん、申し訳ないけど、嘘を吐いてもらえませんか?店に来たら、こいつがもう死んでいた事にするんです」
乃利子は、しばらく考えた後、意を決したような顔で久住少年を見た。
「……わかった。この事は隠し通しましょう。……でも、警察を騙せるかしら」
「わからない。でも、やるしかない」
久住少年は、どういう体勢で長岡が殴られたかわからないようにする為、前頭部もワインボトルで殴りつけた。倒れた長岡の身体を押しのける際乃利子がガラスの欠片で怪我をして、黒いジャケットに血が付いたので、それを隠す為にお酒をぶちまけた。
こうして、二人は重い秘密を共有する事になった。
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