団長は奏人に匹敵するらしい!

「カノン様はどこまで知ってるかわからないけど、奏人の仕事って船上でもあるんだよ! うちの団長も奏人を目指した事があるみたいで、でもやっぱりダメみたいだったって……。」


 船内でシャワーを浴びてサッパリした後、バーニーに用意された動きやすいビスチェとパンツに着替え、もう一度甲板にあがる。


 このピアノが置かれているスペースは、展望デッキを改造した演奏用のスペースで、その音色は展望デッキを通して船全体だけでなく、船周辺にも響かせる事ができるかのようだ。


「あたしもそうだけど、ベニスとあたしと船長は団長にピアノを教わったんだよ。 団長も奏人に負けない食らい上手でカノン様と弾き比べしたらどうなるかな?」


 どうやら団長は奏人に迫る演奏ができるらしい。

 あたしと比較されると正直微妙だ。


 まぁ、アリアには届かずともンコヒーやヤムリ君のレベルにまで到達していれば評価できそうだけどね。


 

 本気がだせなくなったとはいえ、弾けなくなったワケではないしスランプでもない。

 

 スランプだったり物理的に演奏できないのであれば真剣に考えなければならないけど、そうでないなら、練習あるのみ!


 アタシだって最初から本気での演奏ができたわけではない。


  玩具のピアノからはじまり普通のピアノだったり、段ボールを使ったり頭の中で何時間もイメージトレーニングしたりと、今までの人生の半分以上はピアノと向き合ってきた自負はある。


「船長はもう船を動かしてるけど、団長もあとからくると思うから、それまでは自由に使っていいみたいだよ」


 「わかった」

 団長が来るまでの間があたしにとっての練習時間。自分との戦い。


 バーニーに付き添ってもらって階段を登り甲板の上、昼間とは違う冷たい潮風が突き刺さり、明かりのない空には甲板からその向こう側、雄大な海は色を失い得体のしれない恐怖感があった。


 

 船が波にあおられて揺れているだけではないということから船長はすでに仕事に戻ったということがわかる。


 幸いな事に甲板のあちこちには最低限の足元を照らす灯りがありこの光りを頼れば目的地まで安心だろう。


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