第10話 困惑と贈り物 ヨハン

 私は屋敷に着くと制服から仕事着に着替える。私は鏡を見ながら身なりを整える。そして、使用人宿舎から出ようと玄関の近くまでくるとヨハンさんが立っている。


「ヨハンさん、ただいま」


「坊ちゃん、おかえり」


「仕事は何からしましょうか?」


「そういえば坊ちゃん。昨日は誕生日だったね」


「昨日言ってくれなかったから、忘れてしまったかと思ったよ」


「私が坊ちゃんの誕生日を忘れると思うかい? はい、これを受け取ってくれるかい? 贈り物だよ」


 彼が綺麗に包装された袋を差し出す。私は受け取り開けてみる。すると、中には短剣が入っている。私は取りだし見ると、それは細かく細工が施されている。鞘と柄には金や宝石も使われている。私は物の価値には疎い。しかし、そんな私でも短剣の価値を容易に推し量ることができる。


 私は彼の給金で買えるのだろうかと考える。私が、その様なことを思うのは彼に失礼であるのは分かっている。しかし、私がどう考えてみても大変高価な物にしか見えない。彼が所有している貴重な一品なのかもしれない。


 買ったにしても、彼は相当無理をしているに違いない。私は彼に申し訳ない気持ちで一杯になっている。


「そんな高価な物は貰えないよ。その対価に見合うことなんて出来ないよ」


「見返りなんて気にすることはない、さぁ遠慮するもんじゃないよ。人の好意は黙って受け取るものだよ、坊ちゃん」


「でも、やっぱり気兼ねしてしまうよ」


 毎年、私は彼からは誕生日には贈り物を貰っている。しかし、その贈り物とは、メリーチ家の果樹園で育った出来の悪い果物だ。それと短剣では、いくら何でも差があり過ぎる。私は困惑せずにはいられないでいる。


「受け取って、もらえないかい?」


「ごめんなさい受け取れないよ、ヨハンさん」


「私は、こう見えても昔は……」


「それは知ってるよ」


「坊ちゃん。それなら私に恥を掻かせないでくれ」


「……でも」


「やはり受け取ってはもらえないかい?」


「気持ちはとても嬉しいよ」


「では、さぁさぁ」


 彼は無理やり、それを私の右手に握らせる。それを私は拒めないでいる。そうすることは、彼のせっかくの好意を私が踏みにじることになってしまうことになる。


「あっ、ありがとう。ヨハンさん」


「あぁ坊ちゃん、そういえば忘れていたよ。お嬢様がお呼びだそうだよ」


 彼は、そのまま背中を押し外に自分を出す。私は短剣を腰に差し、彼女の元へ向う。

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