第9話 眉目秀麗 エドワード・オテーヌ

 その先にいたのはエドワード・オテーヌである。彼は二学年上でマチルダの兄である。全く思ってもみなかった事に、私は唯々驚かされている。


「やぁ、君たち今頃お帰りかい?」


「はい、エドワード様」


 私たちは直立不動で返答する。この学院の上下関係は非常に厳しく、上級生に声を掛けられれば直立不動で受け答える。すれ違う時には、その場で立ち止まり一礼しなければならない。下級生から上級生に声を掛けるのは、禁止されている。この他にも様々な学院則が定められている。


「どうして、こんな時間に僕がいるって顔してるね」


「いえ、そのようなことは決してありません」


 この学院は学年ごとに登下校の時間が決められている。登校は下級生から上級生の順に、下校はその逆である。


「先生の頼まれごとを片付けてたら、こんな時間になってしまったよ。君たちは、面倒くさい奴に声を掛けられたと思ってないかい? もしそうなら残念だ。アンドゥ君、ローレンス君」


「思っていません」


「私もそうです、エドワード様」


 彼はブロンドの髪に琥珀色の目をしている。彼の顔立ちは女性のようである。私が初めて見たときは、男性と信じられなかったほどである。彼は学業と運動能力共に優秀で学年首席ある。彼は、生徒会長にしか許されない金ボタンの燕尾服を着ている。


「ローレンス君、君の剣術の腕は学院中の評判だよ。さすが、剣術の名門貴族だったノーモンド家の跡取りだね。あんなことがあって残念だよ」


「いえ、私など足元にも及びません」


「僕は謙遜する者は好きじゃないな? 気を悪くしないでくれよ」


「いえ、気を悪くするなど本当の事ですので」


 エドワードは国の年齢を問わない剣術大会出場し、本戦まで勝ち上がった実力者である。彼は同年代では無敵を誇っている。


「そう言えば、アンドゥー君。君が一人なんて珍しいね。妹から聞いているよ。毎日、ユリアさんの送り迎えしてるんだって? 今日はどうしたんだい? それとも彼女を待っているのかな」


「いえ、エドワード様。今日は、ユリア様より迎え不要と言われまして」


「何か失敗でもしたのかな? それとも、彼女の気に触れるような事でもしたのかい?」


「いえ、そのようなことは決してしておりません」


「すまない。君まで気を悪くさせてしまってるようだ。詮索しすぎたようだ。謝罪するよ」


「いえ、とんでもありません。エドワード様」


「邪魔したね、二人とも。僕は行くよ」


 私たちは彼に一礼する。彼は、あんな事を言っていたが全く気にならない。むしろ、私は声を掛けてもらえて嬉しいくらいである。


 彼は、下級科の生徒にも気さくに声を掛けてくれる。実直で正義感の強い人である。生徒からの信頼も厚い。すぐに思ったことを口にするのが、彼の唯一の欠点かもしれない。妹のマチルダとは正反対の人間である。


 以前、彼は毎日のように別館に足を運んでいた。しかし、彼は近頃は来なくなった。きっと、彼女に何か言われたのだろうと誰もが思っている。


  おそらく彼は彼女から無視されいる等、あること無いこと吹き込まれたのだろうと推察できる。素直な彼は、それを信じて疑わなかったのかもしれない。私は、彼女の性格から容易に想像することが出来る。


「なぜか、エドワード様は嫌いになれないね?」


「そうだよね、ローレンス」


 私たちは学院を後にする。日が落ちかけていて、空が赤くなっている。

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