第6話:死者蘇生の方法
薄い本を今日も読む。
登場した途端に死んじゃう新キャラに、こっちの世界でよく知ってる人を連想した。
今やすっかりアサケ学園名物と化している、毎日死にながら救命医療を教える先生を。
「死んだと思った者に腕を掴まれたら、ゾンビかと思うよな」
薄い本を閉じて、俺はホラーな光景を想像した。
以前、モチと一緒に蘇生実習をした時を思い出す。
モチが魔法を間違えて、ゾンビになっちゃった笹谷先生。
顔色がいつも以上に土気色で、キシャーッとか言ってたなぁ。
ビビリまくったモチが、火魔法で火葬しようとしたっけ。
でも火魔法は効かなくて、爆裂魔法で爆散させて倒してた。
成功率の低い下位蘇生魔法を100回くらい使って、ようやく蘇生に成功したモチは疲れ果ててたよ。
そのおかげで赤い卵が孵化して、不死鳥フラムが復活したんだ。
あの後、俺は自習で蘇生魔法を覚えたけど、
「オバケとかゾンビとか苦手だから、俺なら逃げちゃうかも」
「と言いながら、霊が淹れたお茶を飲んでるよね」
苦笑して言う俺に、神霊タマがツッコミを入れる。
タマは立体映像みたいな姿で、空中に浮いていた。
俺には日本にいた頃から
後に聞いたらその能力は魂に組み込まれているそうで、前世でも持っていたらしい。
前世も俺みたいにタマが視えて、禁書閲覧室に入っていたという。
「タマは死者の霊とは違って、背筋がゾワゾワしないし、可愛いから平気」
「嬉しい事を言うね。はい、今日のお茶とオヤツ」
俺が手渡した薄い本を棚に戻すと、タマは柑橘系の香りがするお茶とチョコレートケーキを出してくれた。
タマは死んだ者がこの世に未練を残す霊ではなく、神様が物質的な器を与えていない神霊という存在だ。
「霊といえば、君はアズとルルの霊がいる木の隣に住んでるよね」
「あの2人は他人じゃないから平気」
オバケやゾンビが苦手といっても、全てではない。
アズは俺の前世だし、ルルはその妻だ。
ルルの正体は先代の魔王で、彼女は魔王の力が戻る事を恐れて転生をやめている。
転生ではなく蘇生なら魔王の心臓は出現しないけど、ルルは老衰死なので蘇生出来なかったとアズは言っていた。
薄い本の世界では、死者蘇生の方法は無いらしい。
こちらの世界なら、完全復活の聖魔法が使える者がいるけどね。
召喚獣の不死鳥も蘇生が出来る。
他には、世界樹の花蜜にも蘇生効果があるらしい。
但し、いずれも心肺停止から24時間以内という制限つきだ。
24時間以内でも、老衰死や神様に魂を抜き取られた事による死亡には効かない。
そういえば、エアが新しい蘇生薬の研究をしてたな。
素材の納品も兼ねて研究の進展を聞きに行ってみよう。
俺はティータイムを終えると、エアがいるアマギ王国へ向かった。
「アズ? あ、間違えた。イオ、いらっしゃい」
「何なら『お兄ちゃん』でもいいんだよ?」
エアの言い間違えはもう気にしない。
前世関係者あるあるだからね。
エアは日本転生時は俺の年子の妹だった。
今は前世の心と記憶を取り戻し、アズの幼馴染の人格が表層に出ている。
「さすがにその姿で『お兄ちゃん』は無いわ」
「中身は20歳だけどね」
ツッコミを入れるエアに、俺は実年齢を主張する。
俺の身体は今は6歳だけど、変換される前は20歳の大人だった。
エアも今の身体は6歳だけど、仕事に支障があるので20代くらいの成人女性の姿に変身していた。
「はいこれ今日の納品。新しい蘇生薬の研究はどんな感じ?」
「あ! そうそう聞いて、試作品が出来たの!」
素材を渡しつつ聞いたら、なんと新バージョンの蘇生薬が出来たという。
エアが研究を開始したのは、俺が夜間訓練を始めたのと同時期だ。
蘇生効果を持つ世界樹の花蜜を素材に使えるとはいえ、1ヶ月で試薬まで進むとか、俺の元妹は天才か?
「はいこれ。どこかで死んでる人がいたら飲ませてね」
「……って、まさかこれも口移しか?」
「うん。死体が自分で飲めるわけないでしょ」
「……それは、使う相手によってはハードル高くないか?」
エアが差し出すのは、シロップ状の薬が入った小瓶。
この世界ではそのタイプの薬は体内に入れば効果を発揮するので、意識が無い者には口移しで飲ませる仕様だ。
学校で習う救命方法の1つとして飲ませ方は知ってるけど、お手軽には使えない。
気絶してる人間以上に、死体の唇に触れるのは難易度高すぎだ。
「この新薬は、それを考慮して作ってあるの。飲ませる側も飲まされた側も嫌悪感が無く、気持ち良く感じるようにしたから」
「それもどうかと思うぞ」
天才とナントカは紙一重っていうけど、エアの発想は正にそれかも。
俺は半目でツッコミを入れた。
「とりあえず試してみてね。人命救助なら平気でしょ?」
「それは【アズ】で、俺は違……」
「大丈夫、魂は同じなんだから」
言いかけたところでエアに笑顔で圧をかけられ、試薬を押し付けられる。
渋々受け取った俺は、それを
※6話画像
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