第12.2話
「じゃあ、スマホ取ってくるからちょっと待ってて」
僕は二人に断りを入れて、マンションのエントランスドアを通った。僕の家はマンションの三階の一室だ。
鍵を空けて中に入る。狭くもないけど広くもない。一般的な持ち家には程遠い広さだけど、それでも住むにはちょうどいい広さだ。まあ、生まれてからずっとここにいるからというのもあると思う。前に泰河の家に集まってゲームをしたことがあったけど、あまりにも広すぎて委縮した覚えがある。
「あ、そうだ」
僕はキッチンで足を止め、さっとお米を研ぐ。こういうのは隙間時間にやっておくのが一番だ。炊飯器に入れ、セットをする。
「よし。じゃあ行かなきゃ」
僕はスマホを手に取り、誰もいない部屋に心の中で『行ってきます』を伝え、部屋の鍵を閉めた。なんとなくエントランスまで階段で降りると、二人が一つのスマホで何かを見ていた。何かを話し合っているのか、楽しそうにああでもないこうでもないと言い合っているようだった。今日喫茶店に来たのも話題になっていたからって言っていたし、きっと別の話題を探しているのだろう。
「え、島野くん、何してるの? こっちおいでよ」
僕は二人の邪魔をしないように遠くで眺めていたところを大間さんに気づかれ、手で招かれる。
「あ、ごめん。邪魔しちゃったら悪いかなって」
「そんなことない。シップ貼ってきたの?」
「……あ、忘れてた」
(そんなに時間経ってたっけ……っていうか、やっぱり根に持ってるのかな)
「やっぱり、私と一緒に行くの嫌だった?」
「い、いやいや、そんなことないよ。本当に!」
「あれ、もしかして、まこちゃんが慌てて私たちをさ」
「あーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」
大間さんは声量はいつも通りでも、これまで聞いたことないような圧で吉村さんの言葉を遮る。もちろん吉村さんの声をかき消すことはできなかったけど、空気を読んだのか吉村さんはだんだん声のボリュームを下げていった。
「それより、シップって大丈夫?」
「ちょっと背中をね」
「触ってもいい?」
「触られると痛いかも……って、なんで触ろうとしてるの?」
「スキンシップ。シップだけに?」
「まどかちゃん面白くない」
しけた空気が流れるのを待たずに大間さんが早口でツッコむ。
「……まあまあ。それより、本当に今は大丈夫だから。でも今日の午後はゆっくり安静にしておくよ」
「そう? だったら私達も邪魔だろうし、さっさと連絡先交換しちゃって帰ろっか」
吉村さんはスマホの画面にQRコードを出し、読み取るようこちらに促す。僕はそれを読み取り、『友だち追加』のボタンを押す。すぐにさっき撮った写真が送られてきて、『よろしくね』と白くて丸い生物がお辞儀をするスタンプが送られてくる。
「うん、よろしく」
僕はそれを見て、改めて吉村さんに挨拶をする。
「……まあいっか」
吉村さんは何か物足りなさそうに、大間さんを引き連れて帰っていった。
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