第3話
自己紹介のあと愛の案内についていくと、それはそれはとても爽やかな街についた。鼻をつく独特な香りもあるが、見事なのはこの色だ。様々な色があるというのに喧嘩をせず仲良くしている。心の底からため息が出た。街を歩く人々、のんびりと寝転がっている生き物たち。それらもたくさん色づいていて見ているこちらを幸せにする。
愛は近くの家の上に座ると「隣においで」と言った。
ちょうど体中がずきんずきんと痛かったので、大人しく隣に座る。
「ここもいいところだね」
そう呟くと
「あら?あなたは他のところからいらしたの?」
と驚いてこちらを見た。
「うん。えーっと、なんて言うんだろう。あちこち移動してるかな」
「それじゃあ旅人さんなのね。他のところはどんなところだったの?」
うーん、と言いながら思い浮かべる。
「一つは明るくて、あの星...!」
輝いているそれを見た瞬間、目が耐えられなくてぎゅっと閉じた。奥か手前かもわからないほどに熱く、じわっと涙がにじみ出る。それを見た愛は慌てて私の上に覆いかぶさった。
「バカね、太陽なんて見ちゃあだめよ」
太陽。ああ、そうだ。太陽だ。星と聞いてから思い出しても良かったはずなのに。
愛が私の目を優しく撫でる。それだけで目の熱さはなくなっていくようだった。
「あの太陽みたいに、カラっとしててね、明るいところ。もう一つはそことはなんとなく違うところ。空気に水が含まれているのかな?」
「…そう。そんな国もあるのね」
温かくも冷たくもある愛の手は私の目を癒やす。熱さも、目を閉じているのに見えている謎の光もなくなって目を開ける。
ぼやけてる視界もだんだんはっきりと見えるようになった。
「ありがとう」
そう呟くと、愛は私の頭を撫でて隣に座った。
話すことも尽きて、何を話すともなく時間が過ぎる。人の話す声、知らない生き物たちのあくびの音、風が遊ぶ音、物を落として潰れた音が流れていく。
なぜだろう。何も話してもなく、何もしていないのに満たされるのは。
いったいなんなのだろうか。
色とりどりな屋根に座り、薄ピンクや薄い黄色の雲の流れを見て、地面に敷き詰められた石を数える。きっと私達の間に何かが流れている。私と愛とここの皆との間に。
満足感に満たされていると、ストッと後ろで音がした。振り返ると、猫のように小さい生き物がいた。艷やかな皮膚を持ち、真っ白だ。だけど尾は真っ黒で、先端が上に曲がって尖っている。
艶めかしい皮膚なのに、筋肉の動きがよくわかる。耳はなく顔の先端は少し尖っている。細く小さい瞳は硬そうな皮膚みたいなもので守られている。5本の指の先も鋭く尖っていて恐ろしいが、しゃなりしゃなりと気品のある歩き方をして美しくもある。
ほうっと眺めていると愛が
「動いちゃだめよ。ここのコリーは他所とは違って穏便と言っても、触ったら侮辱されたと思って攻撃してくるから」
と私の体を優しく包む。
コリーは静かに、しゃなりしゃなりと隣を過ぎる。猫のように毛は生えていない。この皮膚は何でできているのか分からないが、太陽の光と筋肉でできる影についつい見惚れてしまう。そのままストンと飛び降りたと思ったら、何事もないかのように地面を歩き小道に入った。
「少し待っててね」
とだけ言って愛はふらふらとどこかへ行ってしまった。
話す相手もなく、けど体はしんどくて話したくもなく、何気なく街を見る。変わらず何もかもが流れている。少し頭が痒くなったので足で掻くとあまりの気持ちよさに口が半開きになった。
ふわっと風が私の体を膨らませる。どんどん時間も過ぎて、愛が色々なものを抱えて戻ってきた。
「食べ物と水を持ってきたわ」
そう言って眼の前に置いた。不揃いで質素な色の粒たちを口に含む。舌触りはごわついていて味も苦いので、口の端で削り落としていくと、中からつるつるの甘い香りのものが出てきたので飲み込む。
「あなたみたいな鳥は種子を食べるのかなと思ったけどあっていて良かったわ。たくさんあるからお食べ」
と言って愛は私が食べ終えるまで隣にいた。この何気ないであろう時間が心地良い――愛の帰りたいところもそうだといいのに。
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