ものひろい

ゆめのみち

声のない歌手第1話

 大体の季節は晴れが多い国のなか。それでも作物が育たないほどではなく、気持ちの良いカラっとした空気で。人々はその空気のように力強く生き生きと歩いていく。道いっぱいに買い物をしている人や、仕事をしている人、宣伝している人に遊びながら歩く人たちが広がっている。

 そんな中のせいか、体も軽く感じる。

 その国の中のごく一部。都会と田舎の間の地域。海にも山にも遠い場所。人も結構いるのになぜかギスギスしていない地域。店がなければそこまで売り物を持っていって道端で商売している親子や、踊っている姉妹や絵を描いているお爺ちゃん、自分の家の前で手作りクッキーを売っている子供たちなどがいて、道行く人たちは楽しげに買い物をしている。


 なんて心地の良い場所なのだろうか。自分のいるところより良い場所はないんじゃないか、と薄ピンクの簡素なワンピースを着た彼女は思っていた。無表情にしたくても溢れ出るにっこり笑顔。肩までさらりと伸ばした髪は歩くたびに揺れて遊んでいる。髪の質がいいのか綺麗に天使の輪っかができている。背筋はピンとして踊るようにるんるんと歩く姿は、彼女の事を子供の頃から知っている人たちを元気づけていた。

「エイプリル、今日も歌ってくれるのかい?」

 店の開店準備をしているおばさんに聞かれた。エイプリルと呼ばれた彼女はこくんと笑顔で頷いた。

「いいねえ。あんたが歌ってくれるとあたし、疲れても楽しくなるんだよ」

 その言葉が嬉しくて、満面の笑みでまた頷いた。

 短い会話を済ませると2人は手をひらひらさせて、お互い自分のことを始めた。

 道をしばらく歩くと噴水のある広場に出た。他にも道が繋がっているので人が多い。昔は待ち合わせに使われていたらしいが、今もそれは健在だ。

 噴水が空いていたのでそこに早歩きで向かう。お昼でも椅子が埋まっているのはもちろん立ってる人も多い。だからよくぶつかることが多いからか、ぶつかったところで怒る人はいない。

 エイプリルは噴水に無事たどり着き縁に座った。縁にも座れるように作られているのでここも埋まっていることが多い。それがたどり着くまで空いていたので、ほっと胸を撫で下ろした。

 指を開いて閉じを数回したあと、ピアノ柄のマフラーを膝の上にしいた。マフラーに描かれている鍵盤を弾く。30秒経ったくらいから口を動かし始めた。

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