私は呪いをかけることに決めたのだ

りりぃこ

 裏切り行為である

 凛香リンカに彼氏ができた。


 これはとんでもない裏切り行為である。


 高校生活、彼氏なんか作らないで、友情一筋でいようねって約束し合ってたのに。


 酷い。酷すぎる。


 だから私は、凛香を呪うことにしたのだ。



 ※※※


 まずは呪いと言えば藁人形だよね。


 私は藁人形を作るための材料を集めることにした。

 っていうか、藁ってどこに売ってるんだろう。

 へえ、ホームセンターで売ってるんだ。あ、メルカリでも売ってる。でもキロ単位ではいらないな。


 私は藁をスマホで調べながら一旦冷静になってきた。


 よく考えたら、今冬だし、真夜中に外に出て藁人形打つとか絶対に寒いじゃん。

 その前に夜中外に抜け出すのとかムズくない?見つかったら怒られる。


 だからって、家の中に藁人形置いとくのもキモいしな。


 よし、藁人形無し。


 もう少しお手軽な呪いにしようっと。




 私は別な方法を検討する。


 机をあさって、文化祭で使ったあまりの風船を取り出した。


 あ、この風船膨らませて呪いの人形作るのはどうかな。凛香の顔書いてやって、で、その顔を、思いっきり割ってやったら、パンっていい音も出てスッキリもするんじゃないかな?


 私はそう思って、風船を膨らませた。


 大きく膨らんだベージュの風船に、凛香の顔を描く。そんで更に、毛糸で適当に髪の毛っぽいものを作ってその上に乗せる。

 最後にその風船を、Tシャツの襟ぐりに乗せてみると、凛香の姿の呪いの人形の完成……?


 いや、違うな。凛香こんなパンパンな顔してない。もっと小顔で可愛いし。

 これは、凛香っていうか、どっちかって言うと後ろの席の石塚くんに似てるな。

 これじゃ、凛香じゃなくて石塚くんに呪いをかけちゃう。


 私はすぐに石塚くんをパンっと割って片付けた。




 ゴミ箱に捨てられた萎んだ風船を見ながら、ふと私は更に考えた。


 呪いをかけて、こうしてゴミが出るのってあんまり良くないんじゃないかしら。

 SDGsのこの時代、呪いかけてもその後ゴミが出ないようにしたほうがいいよね?


 そうだ!食べ物!食べ物で凛香の呪いの人形作って、それを食べちゃえばいいんだ!


 なんていい考えだろう。凛香が私の体の中に入るっていうのもゾクゾクするし。


 よし!それだ。


 私はさっそく台所へ行って、ホットケーキミックスと取り出す。これでクッキーを作るのだ。


 お手軽クッキーの作り方を検索してクッキー生地を作っていく。

 そして、生地で凛香のシルエットを作っていく。


 ふふ、凛香は、スタイルが良くてぇ、小顔でぇ、ちょっとおっぱいも大きくてぇ。もー高校生のくせにけしからん体しやがって。


 クッキングシートの上に並ぶ何体もの凛香。


 それをオーブンに入れて焼く。


 いい匂いがしてきたら取り出して、アイシングペンで顔を描く。


 一体目はあんまり可愛く描けなかった。二体目、三体目も。四体目でようやく似ているのが描けた。


 よし、これを凛香の呪いの人形にしよう。


 私は、あまりにうまく作れた凛香クッキーをそのまま食べちゃうのは勿体なくて、思わず写真を撮ってSNSに上げた。


 すぐにイイネがついた。


 凛香からだ。


『超美味しそう!可愛いー。食べに行きたい!』


 ふふ、これが凛香を呪うものだとも知らずにいい気なものだ。


 そう思いながらも、沢山並んだ凛香クッキーの余りを見て、私は小さくため息をついた。


 そして凛香にメッセージを入れる。

『ちょっとクッキー作りすぎちゃった。今から食べに来る?』


 行く!というメッセージが凛香から返ってくるのに一分もかからなかった。


 ※※※


 凛香に彼氏が出来た。


 これはとんでもない裏切り行為である。


 だから私は、凛香を呪うことに決めたのだ。


 でもまあ、今日は一緒にクッキーを食べなきゃだめだから、呪うのは延期しておこう。



 END


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