壊れた世界の歌。

晴曇空

V'ervana_conf_19543567

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[◇  ◇  ◇]


 まだ硝煙の匂いがどことなく残っている。国の一存で決まった隣国への大規模侵攻から一カ月が経ってもなお、戦地となった街は痛々しいほどその爪痕を残したままだった。

 指揮官からの令を受けて、西方に三百六十キロメートル離れた、そんな街、ティスカーナに私は再び足を踏み入れた。避難か、もしくは前衛部隊に殺されたのか、人の気配のない街に。

――……情報によると、合流地点はここから北の方か。

 今回のミッションは私だけではない。既にもう一人の仲間がこの地に足を踏み入れ、この地にまだ残っている残留兵士や、取り残されたままの住人の捜索に当たっている。まずは、それぞれの情報交換を行おう、という話に、彼女となっているのだ。

 私が所属した第十三部隊は、先の作戦では、前衛よりの中衛部隊だった。なので、戦地自体には足を踏み入れ、前衛のサポートとして駆けたけれど、今回地を踏んだ地点と言い、まだまだ知らない土地が多い。手元の情報端末がなければ、さすがの私も迷いそうだ。それだけこの街が大きかったという事だろう。

 瓦礫があちこちに散らばる道路を歩いて、合流地点に向かう。鳥のさえずりさえ遠く、寂しい街だなと思う。ところどころに目にする物を見れば、彼日はこの通りもにぎやかだったのだろうが、それが一層物悲しさを感じさせる。……ひとまず早く合流しなければ。

 しばらく歩いていると、端末が手元の端末が曲がり角を示した。その先は、進めるか分からないほど瓦礫で塞がった小道だった。宛らバリケードとも見えるそれを、登るか一瞬躊躇して、端末を胸のポケットに入れて登り始める。

 登り始めたは良いものの、果たして本当に大丈夫なものだったかと、少し背筋がヒヤッとするようなことを思いながら――実際途中で小さい瓦礫を踏み抜いた時はぞくっとした――反対側に降り切ると、そこは民家のような建物の中に出た。天井はいくつも焼け落ち、どこからか持ち込まれたのであろう木製のテーブルやら家具で散乱している中に、確かに誰かがさっきまでいたような形跡の、カップや広げられた街の地図らしきものが広げられていた。この時代に紙の地図とは随分古風だな――と思っていたところに、後ろからガサっと物音がした。

「?!」

「あっ、ごめんなさい。驚かせるつもりはなかったのだけど」

 後ろ側の建物の玄関らしきところから入ってきた――というかそっちに入口あったんかい――同じ制服に、軍帽を被った白い髪の、同じ年くらいの女性兵が入ってきた。肩のエンブレムを確認するに、第十二部隊所属のようだ。

「初めまして。ヴェルヴァーナ帝国軍第十二部隊所属の、エリーナ・ヴェンタスよ。気軽にエリーナと呼んで?」

「……同じくヴェルヴァーナ帝国第十三部隊から派遣されてきた、カトリーナ・ギャリッツ。よろしくお願いするわ」

「話は聞いているわ。こちらこそよろしくね?疾風の影英雄ヴァナ・イレースさん」

「その呼び方はやめてください。……好きじゃないので」

「へえ? 悪くないと思うんだけどなあ」

 疾風の影英雄ヴァナ・イレースは、どこかの誰かが、先の作戦の戦果を称えて私をそう呼び始めたものだ。確かに、そう呼ばれるほどの活躍はしたと思っているし、嬉しいとは思うのだけど、そうやって誰かに囃し立てられるのは苦手だった。

「まあいいわ。じゃあカトリーナって呼んでもいいかしら?」

「えぇ……それなら」

 エリーナは嬉しそうに「改めてよろしく、カトリーナ」と笑った。

 それから、現状彼女が掴んでいる情報と、私が持ち合わせている情報、それに、軍司令本部からの伝言等々の情報交換をした。エリーナの方が一カ月近く長くこの地に滞在し、あちらこちら巡っているものの、今のところは誰も見つかっていないようだった。まあ、当たり前と言えば当たり前なのだけど。

「それにしても、一体なんでこんな場所に派遣したのかしらね。撤収するときだって、それなりに見てきたはずじゃない?」

「とはいえ、この街も広いですし、私たちだって全員が無事に戻ってこられたわけではありません。見逃しているところも多いでしょうし、詳細な情報をさらに得るために派遣したのでは?」

「それもあるかもしれないけれど、とはいっても、わざわざもう戦いの終わった土地に派遣するのもおかしな話じゃない? 一カ月も経っているのだから、どこかに地下シェルターみたいなものがない限りは、生存者なんているはずもないもの」

「……それは、そうですが」

 言い返しはしたものの、彼女の言うそこは、私も引っかかっていた部分だった。先の言った通り、かの作戦は私たちの軍もたくさんの犠牲を出した。もちろん、それは私たちの部隊も例外ではない。私の知り合いも、友達を亡くして塞いでいたし、そうでなくたって、あの時のように仲間の屍を見るのは出来れば避けたいもの。

 それほどの損害を出してもなお、こうして過ぎた戦地に兵士を送る余裕はないはずなのだけど、今、こうしてこの場に私たち二人がいるのは事実。それほどまでに回収したいがそこにあるんだろうか、と勘繰ってしまいそうになる。

 重い空気を先に破ったのは、エリーナの方だった。はぁ、と長い溜息をついて、「いきなりこんな話をしてごめんなさい」と笑った。

「何はどうあれ、満期まではしっかり務めないとね。お互い、頑張りましょ」

 差し出された手を、私も握り返す。どんな陰謀があるにしたって、ここに派遣されてきた以上は、最後まで務め上げるのが責務だ。何もなければそれでいい。そうであってほしい、と思う。


[◇  ◇  ◇]



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