第1話

 ぷんぷん!そんな音が今にも聞こえそうな感じで、両手を握り上下にふりながらボクは怒っていた。

 

「ごめんねー、撫でてあげるから許してハルちゃん」


 あーちゃんは謝りながらもボクの事を頑なにハルちゃんと呼ぶ。その手は既にボクの頭を撫でていた。


「むぅ…、撫でても誤魔化されないのですぅ……」


 ボクは撫でられながら下を向く。断じて撫でられるのが気持ちよくて、撫でやすいように頭を下げたわけではないのです。ないったらないのですぅ…。


「むむぅ、……うぅー、あっ…」


 ボクが唸り声をあげていると、あーちゃんが撫でるのをやめてしまったので、つい名残り惜しくて声を上げ、あーちゃんを見上げてしまう。ふう姉もあーちゃんもボクより身長が高いので、どうしても見上げる形になってしまうのである。さっきまで両手を振って怒っていたためか、顔はうっすら上気し、涙目になっていたボクは、そのままあーちゃんを見る。


「うっ…!!!」


 何故かあーちゃんは、右手で鼻ごと口元隠し、左手でその薄い胸元を握り締め、ボクから顔を背けてしまった。ボクはそれを見てあーちゃんに嫌われてしまったかと思って、悲しくなってしまい、目元に溜まっていた涙がポロポロとこぼれ落ち、また下を向いた。


「あーちゃん、ボク…怒った…から、ボクの事……きらいになった…??」


 それを見たふう姉が、後ろからボクをそっと抱きしめて


「えーっと、あーちゃんはハルのこと嫌いになってなんか無いわよ、……そう、あれは発作…まぁ、病気みたいなものね」


 !?ボクは驚いて顔を勢いよく上げた。ふう姉の豊かな胸に後頭部があたるが、ボクはそれどころではなかった。


「あーちゃん病気なのですっ!?大丈夫なのです!?えっとえっと病院いくです!?」


 ボクはあわあわしながら矢継ぎ早に、あーちゃんに声をかける。あーちゃんはこちらを向いてくれたが、顔は赤くなっており、ハァハァと肩で息をしている。


「あれはね、病院では治らないのよ、ハル。……そうね、ハルなら治せるかもしれないわ」

「!?どうすればいいです!?ふう姉教えて欲しいのです!!」


 少し考えるそぶりを見せてから、ふう姉は少し顔を下げて、小さくボクに耳打ちをする。


「??そんなことでいいのです?ちゃんと治るのです?」


 ボクがそう聞くと、ふう姉は無言でグッと親指を立てた。それを見たボクはすぐさまあーちゃんに声をかける。

 

「あーちゃんあーちゃん、お膝を下げるです!」


 あーちゃんは、ボクの声に反射的に両膝をついて、ボクの方を向いた。そして


「よしよしなのですぅー」


 ボクはあーちゃんをぎゅっと抱きしめ、頭をなでなでし始めた。


 一瞬、あーちゃんが固まってしまったが、ガバッと両手を開き、ぎゅっとボクを抱きしめ返してきた。


「すぅーーーー……、はぁーーー、ふ、ふへへ……ハルちゃん……いいにおい……ふへぇぁ…」


 あーちゃんはボクの匂いを堪能するように深呼吸し、恍惚の表情を浮かべていた。ボクはその事に気付いていなかったが、ふう姉は見逃していなかった。


「女の子が人前でする表情ではないわね」


 呆れたように肩を竦めているが、焚き付けたのはふう姉である。


「よーしよしなのですぅ、あーちゃん落ち着いてきたです??……っ!?」


 しばらくそうして撫でていたが、あーちゃんが落ち着いてきたように感じたので、体を離して数秒、ポーッとボクを見つめていたあーちゃんは、


「もう、大丈夫だよっ!ハルちゃんっ!!」


 と言いながら、鼻血を流し始めるのであった。


「…全然大丈夫じゃないのですぅー!?」



 


 

 

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