第2話 初めての外出
その写真は、良牙くんに断ってSNSに上げた。
『弟にメイクしたら、とんでもない美少女ができた』とだけコメントしたのだが、その瞬間から通知音が鳴り止まなくなり、最初はスマホが壊れたかと思った。
良牙くんに、目に見えて増えていく『いいね』の数字を見せると、少し怯えた顔をした。
それからは、親がいない日には、良牙くんに女装をさせて楽しんだ。
だいたい土曜日だ。土曜日は父の勤務日だったし、義母もその曜日だけは近所のクリニックに頼まれてパートに出ていたからだ。
そのたびに写真を撮ってアップしていると、やがて通知音にも慣れた。いや、慣れるどころか、どこまで『いいね』の数が増やせるのか試したくなってくる。
恥じらいもなくポルノまがいの写真をアップしている女のコが大勢いるが、エスカレートするとそうなるのだろう。
だが、私の目的は『いいね』の数を競うことではない。良牙くんに、女装姿を人に見られる事に慣れさせる事にある。
だから、何度目かの女装のあと、そろそろ自分のコスメを持った方がいいから今から買い行こうと提案したとき、良牙くんは自然な流れで頷いたのだった。
マンションを出て、駅へと通じる商店街を歩いた。
緊張している良牙くんを落ち着かせようと、手を繋いで歩く。
誰も良牙くんを気に掛けない。
少しずつ手の力が抜け、リラックスしていくのがわかった。
ところが、電車に乗った時、予想外の事が起きる。
運良く座れて、スマホで新作のコスメを二人でチェックしていると、ガラの悪そうな男のコが三人乗ってきた。
何がそんなにおかしいのか、バカ丸出しの大声で笑っている。
ドアの前に立つと、遠慮なしに私たちをジロジロと眺めた。
「見ろよ、あのデカいチチ。犯罪だろ?」
「重罪だね。モミモミしてみてぇ」
「オレは隣の貧乳がいいね。あんな清楚なのをヒイヒイ言わせたいぜ」
「貧乳の方が感度いいらしいからな、イヒヒ」
「オマエ、声かけてみろよ」
「ムリって、オマエがかけろ」
何とバカな生き物か。自分たちだけしか聞こえていないつもりの様だが、周囲に丸聞こえである。
白い目で見られていることに、全く気付いていない。
目的の駅が近付いてきたので、私は良牙くんに声をかけた。
「もうすぐ降りるから、向こうに行きましょう」
だが、良牙くんは手を膝の上に置いたまま立とうとしない。
「良牙くん?」
「……ごめんなさい、お義姉さん。ボク……立てません」
蚊の鳴くような声で良牙くんは訴えた。
「えっ? どういうことかしら?」
私もつられて声がちいさくなる。
「その……大きくなって……」
ギョッとして良牙くんの腰を見る。私の場所から、スカートの前が不自然に浮かんでいるのが見えた。
「そんな……なぜこんなところで……」
私は言いかけてやめた。
良牙くんの瞳が涙で膨らんでいる。
「実は、商店街に出た時から半勃ちでした。足がスースーして恥ずかしいのが、何だか気持ち良くて……そしたら、アイツらにイヤらしい目で見られて……」
私の持論だが、良い『受け』はMの属性を持っていなければならない。M属性は『受け』の骨格を形成していると言っても過言ではないだろう。
そういった意味で、やはり良牙くんは類まれなる『受け』の資質も持ち主で間違いなかった。なにしろ、私なら身の毛がよだつようなイヤらしい目で視姦されながら、そのことに性的興奮を覚えているのだから。
嫌いな筈のS属性を持つ『攻め』に強引に押し切られ、イヤだイヤだと言いながら、どんな猥褻な行為も受け入れてしまう『受け』のあられもない姿こそが、エロBLの最大の見せ場であることを否定する腐女子はいない筈だ。
私は思いがけぬ歓びを感じたが、このまま電車に乗り続ける訳にもいかない。精一杯の怖い顔で男たちを睨み付け、会話が聞こえていることをアピールした。
三人は、バツの悪そうな顔をして、隣の車両に移動して行く。
それからしばらく電車に乗り続けて、良牙くんの勃起が収まってから降りた。
そして反対の車線に移って目的の駅に戻ったので、少し時間がかかってしまった。
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