第七話 ひとり慰めて~貴方に抱かれたいと願った/貴方を抱きたいと願った~


 土曜日。

 遥は、自分を押し倒してきた男を殴ろうとしたが、彼が泣いていたから出来なかった。

 おまけに、頻りに「ごめん」と言うものだから、さらに訳が分からない。

 でも、もしかしたら……、と思う。

 幼馴染は自分を好きなんじゃないかと。

 自惚れかもしれない。いや、自惚れだ。

 自分が恋をして、色ボケしているからこんな事を思ったんだ。


 遥は自分の胸に顔を埋めて泣く幼馴染の頭を優しく撫でてやった。

 すると、鉄郎はまた「ごめん」と言って遥から離れる。


「お前が泣くなんて珍しいね」


「……すまん、いい奴に失恋したんだ。慰めてくれ」


「じゃあ、昼は焼肉でも食べに行こうか。お前の奢りで」


「そーだな、って、俺の奢りかよ」


 まだ弱々しいが鉄郎は笑った。

 『失恋』、それは、きっと。


 どうか、誰かが鉄郎を愛してくれないかと遥は願ってしまった。


 幼馴染の恋を知っても尚、匠海が好きだ。

 好きで、好きで、愛おしくて。

 もっと、彼の色んな一面を知りたい。

 でも、色んな一面を知っても尚、彼を好きだろうと想う。


 なんでこんなにも、愛おしいんだろうか。


「(……俺はとうとう狂ってしまったんだろうか)」


 よく知りもしない男、同性を一目で好きになってしまった。

 嗚呼、抱かれたいと、この男に滅茶苦茶に組み敷かれたいと想ってしまった。


 鉄郎とまた月曜日と言って別れる。

 家に帰る。仄かに鉄郎の香りがする。

 彼はどんな香りを残してくれるのだろう。

 彼の温もりは……。


「……変態かよ、俺」


 匠海を想っていたら、股間が膨張し始めた。

 これが初めてじゃない。

 昨日も、彼を想って、ひとりで慰めた。

 そして、貴方に抱かれるのはどんな快楽かと鳴いてしまい、切なくなった。


 泣いてしまいそうになる。

 思わず、彼の名前を呼ぶ。恥ずかしくなる。また、膨張する。


 弾け飛ぶ白い雫。

 絶頂して、息を荒げながらまた、泣く。

 自分の身体を抱きしめて、泣く。


「……ごめんね」


 汚してしまって、ごめん。


 嗚呼、貴方に抱かれるのはどんな快楽でしょうか……。


 どんなに、幸せでしょうか……。


 愛してしまって、ごめんなさい……。



 土曜日、同じ時刻。

 楠木家では匠海がまたひとり自分を慰めていた。

 生憎、華澄はクラスメイトと遅くまでお出かけだ。

 匠海は、まさか遥が自分を想ってシていたなんて思いもしない。


 昨日から落ち着かなかった。

 色んな遥を、遥の曲を感じて、欲情していた。

 でも、昨日は華澄がいた。

 万一、覗かれたらがある。出来なかった。


 それに、自身の先輩をオカズになんて、と躊躇いがあった。


 今日、華澄がクラスメイトと出かけるという。

 発散するチャンスだと思った。

 最初は、お気に入りのスケベ雑誌を見ていた。

 その気にならない。前は出来たのに。

 色々試してみて、申し訳なくなりながらも、遥を想った。


 己が膨張する。


 嗚呼、やっぱり好きだ。

 貴方がいい。


 まもなく絶頂を迎えた。


「……嘘だろ」


 ティッシュペーパーに出た白いものを丸めて捨てて、ベッドに寝転がった。

 ボーっとして、幻覚を見た。

 遥が裸で跨っていた。

 目を擦る。何もない。


「……末期かよ」


 嗚呼、貴方を抱きたい。

 貴方を抱いたらどんなに気持ちがいいのだろう。


 どんなに、どれだけ幸せだろう。


 嗚呼、貴方が、好きだ。



「……遥先輩」


「あ! 匠海くん、こ、こんにちは!」


「う、うす」


 月曜日。

 ぎこちない動きをしながらも『日常』を演じる二人。


 バレてはいけない。この、汚らしい欲だけは。


 バレてはいけない。この、初めての純愛だけは。


 二人は今日もまたお互いを、犯す。



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