Day 2-①杉並幸太郎

 二日目の朝は水曜日。


 ゴスロリファッションの女の子との出会いから二日目。全体朝礼、校長が長々と話している――昨日ボクが殺した教頭について。

 立派な人だったとか、生徒のことを第一に考えていたとか――嘘を吐くな。あの教頭は、保身と学校の体面にしか興味がない男だった。殺しといてなんだが、死んで当然だと思う。実際に、泣いてる生徒は一人もいない。教員もだ。なんなら普段よりもドライアイ気味だ。校長がハンカチで目頭を拭った――演技派のバイプレイヤーを連想させた。


「――教頭先生へのお悔やみについては以上です。尚この勝負は、尋常なる勝負であったことを、ジャッジが認定しました。昨日のうちにその旨を証明する電子証明書が県警宛にメール送信されていることを付け加えておきます。次に生活指導の進藤先生から、校則の改訂についてかいつまんでお話して頂きます進藤先生」

「はい、えー、たった今校長先生が言われましたが、校則が変わります。えー、詳しい内容についてはこの後のホームルームでプリントを配り、またメールでも配信致します。『かいつまんで』ということだったのでこの場では簡潔に――ボードを見てください。主なポイントを書き出してきました」


   その一

   校内ガンファイトを行う際には

   止めを刺してはならい


「えーこれはつまり、ライフが0になる条件でのガンファイトを禁止するということです」


   その二

   教員または学校関係者にガンファイトを

   申し込む際には、事前に担任に申請書を

   提出すること


   その三

   生徒諸君は学生の本分を忘れることなく

   ガンファイトは”学業に差支えの無い範囲”

   で行うこと


「主な改訂は以上の三点となります。質問があれば、担任の先生か私宛にお願いします。メールでも構いません。以上です」


********************


 昼休憩、ボクは学校を抜け出し、例のバス停に向かった。いた。相変わらずだ。膝の間にだらりと腕を垂れ、指でピストルの形をつくって、通行人を撃っている。今日は黒い口紅、髪の色も黒。

「凄い唇だな。ナスビ食べ過ぎたのか?」

「ねぇ、アタシの名前、決まった?」

「決まったよ。お前の名前は”クソビッチ・チビッチ”だ。ざまぁ見ろ!」

「……アンタ、サイテー。大人げない。よゆーなさすぎ。勝負する?」

「しない。ルールについて一つだけ提案したい」

「提案?何?」

「セットについての縛りが必要だ」

「そう?なんで?」

「現状ではフォールドが意味をなしていない。フォールドは連続で2回しか宣言できないという縛りがあるのに対して、セットは無限にできる。つまり、勝負を挑まれた方は、否が応でも勝負を飲むしかない――不公平だ」

「なるほどね。細かいね」

「お前のルールが大雑把すぎるんだよ!どうだ?『セットを宣言できるのは一日一回まで』というルールは?」

「ジャッジ―」

【呼ンダカ?】

「今の話、どう思う」

【イイダロウ。正シ、ルールノ改訂ハコレガ最期ダ。重大ナ欠陥ガ新タニ発見サレタ場合ヲ除キ、今後ハルールが改訂サレル事ハ無イ】

「だって。よかったね幸太郎」

「下の名前で呼ぶなクソビッチ」

「じゃあ賭ける?」

「何を?」

「お互いの呼び名、勝った方が決める勝負、する?」

「ライフあと1しかないんだ。呼び名も何も死んでしまっては――」

「ジャッジ、今からお互いの呼び名を賭けて勝負をする。勝敗によってライフは増減しない。いいでしょ?」

【嗚呼】

「【嗚呼】じゃないだろ?さっきルールは変えないって――」

「セット」

「う……ジャッジ、ライフは担保されている――信じていいんだな?」

【侮辱スルノカ?ワタシガ嘘ヲ吐クトデモ?ワタシハ猫ダゾ?】

「猫は嘘つかないのか?知らなかったよごねん。フォールド」

「え?勝負しないの?」

「今日はそんな気分じゃない。それに早く帰らないと焼きそばパンが売り切れてしまう」

「そう。じゃあまた明日」

「明日は来ない。お前の名前はずっと”クソビッチ”のままだ。じゃあな」


 クソビッチの視界から見えないところまで歩いてからボクは、学校へ猛ダッシュする。走るとまだ膝が痛い。風が頬に当たるとそれも痛い。でも急がないと焼きそばパンが売り切れてしまう。

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