令状と手紙

「マーカス殿下、 リーゼは私の婚約者です

そんな事を言うのならば何か証拠でもあるのですか?」


メイズが淡々とマーカスに問う。


「当たり前だッ!! シー子爵令嬢に俺を取られて嫉妬しているんだッ!!」

「そんな事はございません」


リーゼが淡々と述べる。


「私と殿下の結婚は陛下たっての希望でして、 私としては殿下に何の感情も抱いておりません」

「そんな訳があるかッ!! 私は王太子だぞッ!! 何の感情を抱いていない筈が無いッ!!」

「そんな事を言われましても、 本当に何の感情も無いのです

殿下と私の接点は無かったでしょう? お茶会をする訳でも無い

誕生日にプレゼントを渡し合う訳でもない」

「いやプレゼントは貰っていたッ!! 私も送っていた筈だッ!!」

「使用人に選ばせたものです、 殿下もそうでしょう」

「・・・・・」


黙るマーカス。


「し、 しかし王太子との結婚は権力が手に入るでは無いか!!」


ダンが叫ぶ。


「権力なら既に公爵家の権力があるだろう、 それに私と結婚するのだから妬む理由にはならない」


メイズが断言する。


「俺は王太子だぞッ!! お前は王子だろうッ!!」

「それは如何いう意味ですかな?」


メイズがマーカスの言葉に聞き返す。


「自分は王太子だから他国の王子に何を言っても良いと? そうおっしゃる?」

「」「殿下は怪我で朦朧としているのです!! 大変失礼いたしました!!」


マーカスが喋る前にオリが頭を下げる。


「そもそも逮捕令状は持っているのですか?」

「れ、 令状? あ、 あぁ令状ですね、 ダン、 出してあげて」

「令状? 私は知らないぞ、 リチャードが持っているのでは無いのか?」

「私も存じ上げません、 王太子殿下が持っているのでは?」

「令状って何だ?」


頭を抱える一同。


「被疑者を通常逮捕する際必要になる

『逮捕の理由や日時等が明示され同被疑事実について逮捕を認める旨を許可した裁判所の書面』です」

「俺は王太子だぞ? そんなもん要るか」

「王族が法律を無視するとはふざけていますね、 私が兵を連れて来なかったらどうなっていたか」

「それだ!!」

「は?」


叫ぶマーカスに困惑する一同。


「おかしいだろうがッ!! 何でこんなに兵隊を連れて来たッ!?」

「マーカス殿下が何か嫌がらせするかもしれないから迎えに来たんですよ

現に今も無法を犯している、 これ以上何かするのならば我が国と争う事になりますよ」

「ッ!!」


マーカスが歯軋りしている。


「確かに令嬢は有りませんし証拠も無いでしょうが

疑惑の種の様な物ならばありますよ」


オリが口を開いた。


「疑惑の種?」

「殿下とシーを襲った賊は殿下に封筒を渡しました

恐らく要求だと思われます」

「要求、 たと思われます? 如何いう意味だ?」

「中身は暗号でした、 ルイグラム式の」

「「!!」」


ルイグラム式暗号とはルイ王国特有の暗号である。

複数の暗号技術を組み合わせてつくられており解読には時間がかかる代物である。


「王国内でも知る者が数少ない秘中の秘・・・か、 リーゼは知っているのか?」

「えぇ、 勿論存じ上げています、 ですがルイグラムは数年に一度改定があります

私の結婚許可に伴って改訂はされていると思います」

「暗号に使われたルイグラムは一つ前のVerバージョンです

ルイグラムは知る者が限られているので容疑者も限られています

その中には貴女も居ますよ」

「なるほど、 しかしやはり令状は必要でしょう、 お引き取り下さい」

「・・・・・」


マーカスは不機嫌になりながらも取り巻きを引き連れて帰って行っ

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