【兄・白鳥 漣】

 白鳥 漣は現在中学三年生、受験生だ。受験勉強に燃えながら、霜乃華への見舞いに通っている。その頻度は一週間に四回ほどと多く、勉強との両立が難しかった。

「漣、病院へ行くのは少し控えた方がいいんじゃないか? あ……その、勉強のことも考えて、……いや、でも行くなとは言わないよ、回数を減らすとかそういったことをだな」

 父が、いつになく真面目な顔で己にそう提案してくる。

 霜乃華の見舞いから帰った白鳥邸にて、退勤してきた父と鉢合わせしたのがことの始まりだ。

「……父さん。急になんだってんだ」

「急にというか、前々から話そうと思ってて」

 そういえば、こうして話すのは数週間ぶりぐらいだっただろうか。

「さっきの話にもどるけど、それは分かってる。週二ぐらいにすればいいんだろ? 俺のことを考えて言ってくれるのは分かるが、もっと霜乃華に時間を割いてやってくれ」

「いや、でも、お前だって俺の子どもなわけだし、放置ってわけにもいかないんだ。親として、霜乃華ばかりにも構っていられない……」

 二人の間に嫌な沈黙が流れた。

 重たい空気に耐え、先に口を開くのは漣。

「……どうせ父さんは、末娘霜乃華を一番優先したいんだろ? 俺のことなんか放っておけよ、穂乃華だって絶対そう思ってる」

「俺は、自分の子どもぐらい責任を持って守ろうと、」

「子ども〝ぐらい〟ってなんだ⁉ 自分の子ども以外はどうでもいいってことになるから、その他と同じように俺にも関わって来るなよ……」

 ——家族関係の崩壊。それらは、霜乃華の知らないところで動いている。

 知られなくていいと思った。いやむしろ、霜乃華には知られたくない。

 いつから、この平凡だった白鳥一家は変わってしまったのだろうか。静かに続く口論中、頭の片隅でふと思う。

 ——そうだ、霜乃華がおかしくなってから変わったんだ。

 冷静な自分が止めろと叫ぶが、思考は当然の如く止まらない。

「もう、俺の行動に口を出さないでくれ。霜乃華の見舞いには行くし、勉強もそこそこに済ませるから」

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