落ちこぼれ少年、すっぽんぽんのフルチン冒険者になる。

ゆーすい

すっぽんぽんのはじまり

 大地を駆ける。敵は3体。それぞれが王国兵の魔法をものともしない程の強靭な身体を持ち、その攻撃は一度でクレーターを生み出すほどだ。正直、今の俺に勝てるかはわからない。俺は敵の一体に向けて空高く飛び上がる。避難中の住民の視線が一気に集まるのを肌で感じる。


 「グオオオォォォォォォ!!!」


 顔に向けて突進してくる俺を打ち落とそうと、上級鬼グレートオーガが腕を薙ぎ払う。その一振りで突風が巻き起こり、俺のアレが揺れ動く。紙一重で躱した俺は、その威力に冷や汗を流した。当たればひとたまりもないだろう。

 

 「ふんっっ!」


 「グオオォォ……!!」


 思い切り拳を顔に打ち込む。俺の拳は真っ直ぐに上級鬼の顔に突き刺さり、そのまま地面に押し倒す。攻撃はしっかりと通用するらしい。そのことに俺は安心――


 「ウォォォオオオオオオ!!!」


 ――できない。敵は3体いる。当然、順番待ちをしてくれるはずもなく、拳を振り抜いた体制のままの俺に小鬼王ゴブリンキングの棍棒が迫る。


 「くっっ!!」


 間一髪で剣を抜いた俺は、かろうじて攻撃を受ける。だが、体格差がありすぎた。そのまま棍棒を振り抜かれ、俺の身体はボールのように吹き飛んだ。受け身の体制を取りつつ、避難中の人々のところまで飛ばされる。一瞬の静寂の後。


 「キャアアアアァァァァ!!」


 俺の姿を見て大衆は悲鳴をあげた。まぁ無理もない。なぜなら今の俺は完全に全裸なのだから。


 「いや、ほんと許してくださぁァァい!」


 一瞬の判断。俺は、今後の自分の身を守る為、大衆の前で土下座をした。

 



 

 時は2週間ほど遡る。


 「恥を知れ!!」


 思い切り殴られる。なんの抵抗もできずに吹き飛んだ俺の身体は、そのまま地面に叩きつけられた。痛む身体を突き動かして起き上がると、そこには鬼のような形相をしたお父さんがいる。


 「レグル、お前はもう15だぞ!?なのになんだその体たらくは!?総師範である俺はまだしも、師範代からも一本も取れないとは、ふざけているのか!?」


 「はい……すいません。」


 「もういい、今日は終わりだ。とっとと失せろ。明日の準備も忘れるなよ。」


 「はい、失礼します。」


 俺は一礼してから武道場を出る。屋敷に戻った俺は自分の部屋に着いてから、ようやく緊張をほどく。汗の染みついた服を脱いでベッドに横たわると、一気に疲れと気だるさが身体を襲った。

 俺の家は、代々ウェブレン流剣術の総師範を務めている家系だ。一応、王国一の武術家系として、代々伯爵の位を受け継いできている。しかし、魔法技術が発達し、剣術なんてものは時代遅れの戦い方だと考えられている今となってはあまり重要視されていないのが事実だった。1世代前までは1万人以上いた門徒も今は千人を少し超えるほどしかいない。


 「レグル様、失礼します。」


 「おお、カペラか。ノックくらいしてくれよ。」

  

 下着姿のままにも関わらず突然開け放たれたドアに驚くが、すぐに俺は警戒を解いた。


 「怪我の手当てに来ました。そこに座ってくれますか?」


 要件を理解した俺はカペラに身を任せて傷口の消毒をしてもらう。相変わらずの手際の良さだ。


 「いつもいつも、本当にひどい怪我です。レグル様が産まれつき身体が弱いことを知った上での乱暴ぶり。直属メイドとして許せません。」


 「身体が弱いのは言い訳にはならないよ。俺が努力不足なだけだ。」


 カペラは、死にかけてたところを拾った恩でも感じているのか俺に甘すぎる節がある。身体が弱いなら、他の人に追いつく為に反吐を吐いても練習するのは当たり前だ。小さい頃からそうだったからな。


 「そもそも、あのクソジジイ、レグル様を王国からの評価を取り戻すための道具程度にしか思ってないじゃないですか。正直、私はレグル様がこんな目に遭うのを見てられません。」


 「確かにそうかもしれないがな、一応ここまで育てて貰った恩があるんだ。それを返さないわけにはいかないよ。」


 正直なところ、俺だって父さんのやり方に思うところはある。カペラがクソジジイ呼ばわりしても咎める気が起きないくらいには嫌ってもいる。でも、だからこそ育てられた恩を返さずにいるのは気が済まなかった。


 「いっそ、私と2人でどこかに逃げ出しましょう。私はレグル様とならどこまでもお供致しますから。」


 「いつも言ってるだろ。俺は恩を仇で返したくないんだ。何より、俺は父さんに育てられたという借りを作りたくない。」


 「……レグル様がそう言うなら、分かりました。はい、傷の手当ては終わりましたよ。」


 いつも通り傷の手当てをしてもらった俺は、カペラにお礼を言う。それからはいつも通りお茶を飲みながら雑談をする。屋敷の人以外との交流を厳しく制限されている俺にとってカペラは唯一の同い年。だから俺は、1日の中でこの時間が1番好きだった。


 「そういえば、明日の準備はしてますか?久しぶりの重要な式典ですから、カッコよく決めてくださいよ?」


 「あぁ、分かってるよ。明日はステータスとスキル鑑定の日だからな。カペラもやるんだろ?準備はできてるのか?」


 「もちろんですよ。ばっちりおめかししちゃいます。」


 「それは楽しみだなー。カペラならきっと誰よりも綺麗になるよー。」


 あからさまに棒読みな言い方にムスッとしたカペラに頬をつねられながら俺達は笑い合う。うちの国では、15歳になるまではステータスを鑑定しないという習わしがあった。強いスキルを持っている奴が小さい頃から調子に乗ることがないようにする措置だそうだ。


 「俺はどんなスキル持ってんのかな?俺はやっぱり剣関連のスキルがいい。」


 「私は、レグル様の力になれるものならなんでもいいです。」


 例えば、剣聖のスキルを貰えば剣聖に相応しい身体能力と剣の才能が与えられ、鍛治師のスキルを貰えば素人でも鍛治のイロハと才能を身につけることができる。



 「カペラは俺のことは気にせず自由に生きていいんだぞ。今までの給料を考えれば仕事辞めても一年は遊んで暮らせるだろ?」


 「それはそうですが、私がレグル様の元から離れることは絶対ないですよ。」


 「それはありがたいんだけどなぁ。まあ、カペラがそれでいいなら何も言わないよ。今日も会話に付き合ってくれてありがとうな。」


 「こちらこそありがとうございます。この時間が1番ゆったりできます。」


 いつの間にか、外はすっかり暗くなっていた。やっぱり、カペラと話すのは楽しい。時間感覚がなくなってしまうほどに。


 「じゃあ、また明日に。レグル様。」


 「あぁ、おやすみ、カペラ。」


 そう言ってカペラは俺の部屋から出て行く。1人になり少し寂しさを感じた俺は、その日はすぐにベットに横になって眠りについた。


 

――――――――

―――――

―――


 翌日、カペラに起こされた俺は手早く準備を済ませる。ちょっと寝坊しちゃったからな。2本の剣が交差する家紋の入った服をきて、用意を終えた俺は、お父さんの待つ食堂へと向かう。


 「失礼します。今、準備ができました。」


 ノックをして食堂に入ると、そこには相変わらず不機嫌そうなお父さんがいた。また、殴られるだろうか?そんな不安を少し抱えつつ、俺はお父さんの元まで歩み寄る。


 「ふん、レグルか。いかに貧相な身体つきのお前といえど、まともな服を着ればそれなりには見えるものだな。」


 「ありがとうございます。」


 「褒めてなどいない。あぁ、あと言い忘れていたが、今日は間違っても俺に恥をかかせるようなことだけはするなよ。」


 スキルにもランクがある。剣関連のスキルなら、剣士、剣豪、剣聖、剣帝の順といった感じだ。俺がもし、剣聖のスキルが貰えれば、師範代のおじさんですら簡単に倒せるようになるだろう。つまり、父さんは俺が高いランクのスキルを持っていることを願っているのだ。


 「何を突っ立っている?行くぞ。」


 お父さんに連れられて俺は屋敷を出る。お父さんの一個後ろの馬車に乗り込むと、先に乗っていたらしいカペラが呑気に読書をしていた。


 「おや、レグル様。もう出発ですか?」


 「あ、あぁ。もうすぐに出るみたいだな。」


 本から顔を上げて顔を綻ばせるカペラは、どこかの絵画から出てきたのかと疑うほど可愛かった。翡翠色のスカートを履いたカペラは、年相応の街娘といった様相で普段メイド服しか見ていなかった俺は、少し戸惑う。


 「どうしたんですか?緊張していますか?」


 「いっ、いや、決してそんなことはないぞ。」


 「そうですか。それにしてもそのタキシード、お似合いですよ。」


 手を握って話すカペラに俺は不覚にもドキッとしてしまった。もともと整った顔立ちをしているとは思っていたが、ここまで綺麗になるとは思わなかった。だが、多少の好意はあれど、カペラはあくまでメイドとして俺に接しているはずだ。邪な考えを持っちゃいけない。


 「屋敷の外に出るのも久しぶりですね。最後に出たのは12歳の時でしたか?」


 「あぁ、そうだな。確か商業地区の鍛冶屋で俺の剣を作って貰いにいった時だった。」


 「えぇ、確か観光地区で買い食いもしましたね。とっても楽しかったです。」


 剣を振ること以外のことはほとんど全て制限されている俺は、王都に住んでいるくせに、そこらの田舎者と同じほど王都を知らない。休日に遊びに行ったカペラから話を聞いて楽しむことがほとんどだった。不安や緊張は王都の景色を見ているうちになくなっていた。そうしてしばらく景色を見ているうちに、壮大かつ圧巻な城が見えてきた。


 「あれが今日の目的地か。」


 「はい、王都最大の建造物、マキシア王城です。」


 近づくにつれて改めて認識するが、とんでもなくでかい。とにかくでかい。


 「着いたぞ。降りろ。」


 あまりの大きさに圧倒されて動けずにいるとお父さんがまた不機嫌な声色でそう言って降車を促す。あとはお父さんの使用人に案内されるがままだ。あっという間に王城内の大講堂に連れてこられた俺はそこでもまた圧巻される。


 「なんだ、この人の量は?王都にはこんなに人がいるのか?」


 「レグル様、田舎者感丸出しです。少し恥ずかしいです。」


 「あ、すまん…」


 そう、大講堂の中にはたくさんの人がいるのだ。この中にいる俺と同年代の人達は全員がステータスとスキルの鑑定にきたのだろう。俺達も他の人に倣って大講堂の席に着いて座る。


 「オレ、どんなスキルが貰えっかな!?いいスキル貰って、弟達にうめぇもん食わせてやりてぇ!」


 「こら、スイ!あんまり騒いじゃダメでしょ!」


 大講堂で座って聖職者が来るのを待っていると、隣に元気そうな少年と少女の2人組がやってきた。しかし、こう言い方はあまり好きじゃないがかなりボロボロの服を着ている。


 「チッ。スラムの孤児が隣とは、運が悪かったな。こっちまで汚らわしさが移りそうだ。」


 「…っ!そんな言い方は…!」


 父さんの言うとおり、おそらくこの2人はスラム街の孤児なのだろう。だからと言ってそんな差別は絶対に許されない。俺はそう思って咎めようとして__


 「なんだ?文句でもあるのか?」


 「いえ、なんでもありません……」


 お父さんに鋭く睨みつけられて後の言葉が続かない。そんな自分を情けなく思うが、幸いにもお父さんの声は2人組には届いていないようだ。そのことに安堵して、俺はほっとする。

 それからしばらく、無言の状態が続いていると、ドンッと言う音が会場に鳴り響く。何事かと思いあたりを見回すと、どうやら魔法使いが大講堂のステージ中央の穴から飛び出たらしい。


 「皆さん!本日はお集まりありがとうございます!それではこれより、鑑定の儀式をさせていただきます!」


 よく通る声でそう言った聖職者は、何かを唱えて仰々しく身振り手振りを加えて呪文を叫んだ。


 「〈能力解放スキル・オープン〉!!」


 聖職者の言葉を合図に、目の前に青白い映像が浮かび上がる。周りを見ると、同年代の、つまりスキルとステータスの鑑定にきた1人1人の前にこれが浮かんでいるようだ。


 「何も、表示されない……?」


 「まだ、何も表示されないでしょうが、ご安心ください!早ければ5秒後ほどで皆さんの前の映像に自身のスキルとステータスが表示されるでしょう!」


 どうやら焦る必要はなかったようだ。実際に5秒ほどすると、大講堂の一部からざわめきが起こり始めた。ステータスとスキルが表示されたのだろう。


 「あっ!表示されましたよ!レグル様!」

 

 その言葉の通り、カペラの目の前の映像にはステータスとスキルが表示されている。


 カペラ(15歳)

 レベル1


 ステータス

 HP 400

 MP 700

 攻撃力 250

 防御力 250

 魔力 900

 素早さ 400

 スキル【魔王】

 

 「魔王…か。なんか凄そうな名前だな。それにステータスもとんでもなく高い。」

 

 ステータスが2000を超えれば英雄クラスと言われる中でカペラのステータスの一部はレベル1でそれの半分近くある。とんでもないステータスと言っていいだろう。


 「そうですね。レグル様のお役に立てるスキルだといいのですが…」


 「魔王だと!?」


 俺とカペラの会話を聞いていたらしいお父さんが首を突っ込んでくる。そんなにすごいスキルなのか?


 「…魔王は、魔法使い系スキルの中で上から2番目のランクのスキルだ。魔法技術が主流の現代では引く手数多のスキルだろうな。」


 お父さんは魔法技術のせいで剣術の価値が下がることは嫌っているが、魔法そのものを嫌っているわけではない。だからか、そこまで気分を害してはいないようだった。


 「すごいじゃないか!カペラ!」


 「ええ、レグル様のお役に立てそうで何よりです。ところで、レグル様のは…なかなか表示されませんね。」


 「あぁ、そうだな。あっ表示され、た……」


 俺はそこに表示された映像を見て控えめに言って絶望した。まるで身体がどこまでも下に落ちていくかのような感覚だ。


 レグル・ウェブレン(15歳)

 レベルなし

 ステータス

 恥 100

 スキル【羞恥神しゅうちしん


 レベルが、ない?ステータス欄が恥ってなんだよ。スキルの名前も俺を馬鹿にしてるとしか思えない。頭が混乱する中、俺は恐る恐るお父さんの顔を見上げる。


 「……レグル、貴様…!!」


 「申し訳ありませんお父さん!」


 予想通り激怒しているお父さんを前にして、俺は即座に頭を下げる。視界の端にお父さんの鋭い拳が見えたところで……


 「すっげえ!剣神だってよ!すげえ!」


 「ちょっと、スイ、だからうるさいってば!」


 そんな会話が耳に聞こえてきた。どうやら先ほどの2人組のようだ。ぴたり、と止まるお父さんの拳。手を引っ込めたお父さんは、ズカズカと2人組に歩み寄るお父さん。


 「おい、貴様。ステータスを見せろ。」


 「あ?んだよ、おっさん。まぁいいけどよ!見てびびり散らかすんじゃねえぞ!」


 「ちょっとスイ、この人多分貴族の方よ!そんな口聞いたら……」


 「うるさい、いいから見せろ。」


 お父さんはそう言って2人組を押し退けて少年のステータスとスキルを除き見る。


 スイ(15歳)

 レベル1


 ステータス

 HP 600

 MP 0

 攻撃力 2000

 防御力 600

 魔力 0

 素早さ 900

 スキル【剣神】


 ありえないほど高いステータスだ。それに、剣神なんてスキル、聞いたこともない。だが、剣士系スキルの中でも、最高ランクの剣帝よりも上のランクなのは容易に想像できた。


 「素晴らしい!君を我がウェブレン家の養子にしてやろう!」


 ……え?俺はお父さんが何を言っているのかまるで理解できない。それはスイと言う少年も同じだったようだ。


 「はぁ?おっさん、何言ってんだ?」


 「悪い話ではないだろう、小僧。ゴミみたいスラムの孤児から、貴族の息子にまでしてやろうと言っているのだ。」


 「わりいけど、その話は聞けねえよ。俺にはまだ小さい弟達と、仲間がいるんだ。この隣にいるルマみたいな奴らがいるんだよ。」


 ルマと言うらしい少女は感動したような瞳をスイに向けているがそんなことはどうでもいい。この少年を、養子にする?じゃあ俺は一体どうなるんだ?


 「ならば、その弟達と仲間とやらも連れてくるといい。屋敷の空いてる部屋に住まわせてやる。ちょうど部屋が一つ空く予定だからな。無論、軽い仕事はしてもらうがな。これでどうだ?」


 「まじかよ!それなら喜んで養子になってやるよ。」

 

 それからは早かった。トントン拍子で話は進んでいき、まるで最初からそうなるはずだったかのように、スイは養子になった。そして、お父さんは契約が終わってからようやく、俺を見た。大講堂で、最初にスイ達を見てた目と同じ目で。


 「あの、お父さん、養子って俺はどうすれば…?」


 「あぁ?貴様は破門だ。そんなふざけたスキルを持った奴など我がウェブレン家の風上にもおけない。2度とウェブレン家を名乗るな。今後一切の屋敷への出入りも禁止する。」

 

 ガラガラと俺の中のナニカに壊れる音が聞こえた気がした。あぁ、お父さんは本当に俺のことを道具としてしか見ていなかったのか。きっとどこかで、俺のことを息子として、愛を持って育てていると信じていたんだろう。でも、違った。俺は所詮道具に過ぎなかった。俺を産んでもう2度と子供が産めなくなった母さんを捨てたのと同じように、俺も捨てられるのだ。スイとお父さんが何かを話しているのが耳に入るが、それは頭の中で言葉として認識されない。


 「そうだ、カペラ。お前は屋敷に残れ。その高いステータスと希少なスキルは驚嘆に値する。それにお前は美しい。どうだ?私の愛人にしてやってもいいぞ?」


 そうしてしばらく、なんの会話も頭に入ってこなかったが、カペラの話が出た途端に思考が現実に引き戻される。

 カペラを、愛人にする。その一言は俺の心の中をぐちゃぐちゃにどす黒くて醜い感情で支配する。だが、ここでそれを曝け出すほど俺は馬鹿じゃない。それに、これはカペラにとっても悪い話じゃない。当たり前だが、もはやホームレスの孤児となった俺よりも、仮にも貴族であるお父さんの元にいた方がいいだろう。愛人になるかどうかはカペラの判断であり、俺の関与するところでもない。俺は真っ黒に染まる心を必死に抑えてカペラを見た。


 「勿論着いて行きますよ。」


 俺はきっとどこかでカペラなら着いてきてくれると淡い期待を寄せていたのかもしれない。だから、カペラがそう言ってお父さんの側に歩みよって行った時、俺は今日1番の胸の痛みを感じた。そんな俺をよそに、一瞬だけこちらに顔を向け、俺に晴れやかな笑みを向けるカペラ。俺はその場から逃げ出すように王城から走り去っていった。頭に残るのは、カペラの笑顔だけだった。

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