知らん人から求婚されそうなお姫様

灰雪あられ

第1話 姫、勇者を認識する。

初々しい少年が1人、王命を受けた。

それも王城で、王直々に。


「あーゔっゔん!…勇者よ、魔王討伐の任を命ずる。魔王を倒し、人の世に平和を取り戻すのだ」


『かっこつけてんなぁ』


姫はため息を我慢した。

年頃の娘にとって、厨二病発症中の父親ほど見たくない、見せたくないものはないだろう。

一方で、少年は緊張と不安に押しつぶされそうであった。

それでもこの場にいるのは、愛しき人への想いが少年を動かしているからである。

愛しき人を護りたい。

愛しき人に一目でもいいから会いたい。

愛しき人にカッコいいって思われたい。


『あぁ、見られている。見られている。おかしなところはないだろうか…。見たい。あぁ、美しいあのお方を、目にしたい。どんな顔をしているだろう…。嫌われてはいないだろうか。あぁ、不安だ。一目でいい。あの方を凝視したい。癒されたい。』


彼の脳内は彼女のことでいっぱいである。


「無論、魔王を倒した暁には褒美を取らせる。我が力の届く限り、お前の願いを一つ叶えよう。」


少年は目を見開き愛しき人に目を向けた。

そして、観衆はざわめき、姫はゾッとした。


『結婚…とか言わないよね?言わないよね⁈』


王は問うた。


「お前は一体何を願う?」


姫を真っ直ぐ見つめる少年の姿に、観衆は静まり返った。

一方、王のテンションは爆上がりである。


『えっプロポーズ?絶対プロポーズだ!このシチュエーションめっちゃ考えてたわ‼』


「ひ、めに…」


しかしやっぱり姫はゾッとした。


『いま、ひめって言った!ひめって言った‼止めねば』


「王よ、僭越ながら申し上げたきことがございます。」


王のテンションダダ下がりである。


『え〜、水さすの?勇者、いい人そうじゃ〜ん』


「…ほう?よろしい。申せ。」

「魔王を倒すは誠長い時を必要としましょう。長い時と成長は人の願いも変えましょう。ですから、今ここで願いを問うはいささか不誠実ではありませんか?」

「ん゛っっっっ」


途端、勇者が胸を押さえて倒れた。


『女神…。俺のような平民のために王に意見するとは!…なんて尊いお方。きらめきでおかしくなりそうだ』


「えっ…勇者様!どうされたのです⁈」


姫は叫びながら勇者に駆け寄り、その肩に触れた。

瞬間、頭から煙が上らんばかりの熱を発した勇者は気絶した。

姫は医者を呼びながら思った。


『勇者持病持ってんの?!勇者が?!……いや、よくないわよリリー。それもまた強さになるのだから』


こうして勇者はしばらく城で静養することとなった。



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