緑の瞳の怪物はだれ?

茜あゆむ

第1話 まぶしい彼女

 緑川伊織はまぶしい。クラスにいても、彼女がいる場所だけはどことなく明るい気がする。そのせいか、俺は緑川と恋人同士だということに、まだ納得できないでいる。


「緑川は、俺のどこがよかったの?」


 テスト期間の放課後に、俺と緑川は机を並べて、試験勉強をしていた。


 俺の質問に、緑川は、う~んとうなる。


「色々あるけれど、やっぱり顔かなあ?」


「顔には自信ないな」


「君は、けっこうモテるくせに謙虚だね」


「自分の顔のことだから。それにモテてないし」


 そうかな? と言って、首をひねる緑川はやっぱりまぶしく見えた。どう見ても、俺と不釣り合いなかわいらしい顔立ちで、じっと見つめられると、こっちが恥ずかしくなる。


「君の瞳は澄んでいて、綺麗だよ?」


「やっぱり、不細工って言ってないか?」


「私の恋人のこと、ずいぶん悪く言うじゃないか。許せないな」


 褒めているのか、けなしているのか分からない言葉に、とりあえずありがとう、と礼を言っておく。


「ところで、君は私のどこが好きなの?」


 緑川は、悪戯を思いついた邪悪な笑顔を浮かべていた。


「顔」


 秒で嫌味を返すと、


「まあ、当然だね。それで?」


 と次を要求された。ひるんだのは俺の方だった。


 あー、とか、うー、とかごまかしていたが、諦めて、正直に話すことにした。


「そういう、俺と正反対なところ、かな……」


「それ、皮肉で言ってる?」


「……いや、本当だよ。緑川がうらやましい」


 俺の言葉に、緑川はなんだか不満そうだった。薄い唇を真一文字に閉じていたと思うと、


「まあ、君が自分を悪く言うのは許しておこうか」


 と呟いた。


「君は、私のことをもっと好きになると思うよ」


 自信に満ちた笑顔は、ちょっと直視できないくらいだった。


 お手柔らかに、とだけどうにか呟いて、俺は参考書に視線を落とした。


 彼女の緑の瞳がきらきらと輝いて、やっぱり俺とは違う人種だよな、と思うのだった。


「私はけっこう、君のことが好きなんだけどな」


 と呟くように言う緑川に、俺は、住んでる世界が違うような気がした。

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