緑黄日記

水野らば

床が抜けていく飲み会

先日、飲み会に参加した。


とあるサークルでの交流会。畳座敷の席に30人ほどが座り、料理やお酒を囲む。皆、ビールや甘い色のカクテルを片手に赤ら顔で話に花を咲かせている。まさに宴もたけなわという盛況だ。新参者の私もその渦に巻き込まれて、グルグルと回った。


私は飲み会の経験に乏しい。


私は大学生の頃に友人がひとりもおらず、話す相手といえば大学の教官と事務の人、あとはマルチ商法の勧誘者くらいだった。多くの人が飲み会を覚える20歳前後をひとりきりで過ごしたこともあり、そこから飲み会に縁の遠い人生を送ってきた。参加者の多い飲み会はこれで4回目。座敷での飲み会はこれが初めてだ。


座敷での飲み会をやってみて思った。


難しすぎる。


まず、「複数人で喋る」というところから難しい。


コミュニケーションの芸歴が短い私にとってはここから難しい。一対一の会話であればさしたる問題はない。相手だけを見ていればいい。しかし、複数人での会話となると、こう、「ターン」の流れが見えづらくなる。その瞬間、誰に喋る権利があるのか、誰が喋った方が面白くなるのか、誰が相槌を打つのか。私は会話に割って入った方がよいのか、それとも水を向けられるまで待った方がいいのか。もう、台本を用意させてほしい。


複数人での会話すら難しいのに、それが「大勢でする座敷での飲み会」になると、私の小さな社会性ではもう手に負えない。


こういった場では局地的に会話の「輪」ができる。最初は皆が自分の座席を持ち、手の届く範囲内の人間と会話をしている。自分の立ち位置がしっかりしている分、まだマシだ。しかし、時間を経るごとに座が混ざり合い、その「輪」が曖昧になってくる。決められた席はなくなり、各人が畳の上を這いずり回って、ふんわりと「輪」を作る。この状況になると困ってしまう。


自分がどの「輪」に入っているかわからない。


もしかしたら、どこにも入っていないのかもしれない。自分が会話の参加者なのかすらわからない、そんなことあるかね。先日の飲み会では、自分が会話の参加者なのかどうかわからず、曖昧な立ち位置で曖昧な笑みを浮かべるしかできなかった。これって、どうやって確かめればいいんだ。聞けばいいのかな、「すみません、この会話って私も含まれてますか?」と。


それに、「輪」の曖昧になった空間では、皆が回遊しながら様々な人とコミュニケーションを取っている。あっちに行ったりこっちに行ったり立ち歩く。私もその流れに乗って何度か移動をした。「輪」から「輪」に移る際には、適度に会話から抜ける必要がある。これが難しい。


その場を離れるその瞬間に妙に気まずいものを感じる。その「輪」を離れたという事実が、「あなたたちとの会話に飽きちゃったので、別の人と話をします」みたいなメッセージを発しているような気分になる。一応、お手洗いに行ったり、飲み物を取りにいったりしてその場を離れる理由を作ってはみたが、このような浅はかな企みは確実にバレていただろう。


移動が発生するシステムがあればいいのに。


場の移動に自分の意思みたいなものが介在するからこそ気まずさが発生する。目に見えるような移動の必要性さえあれば、この問題は解消されるような気がする。例えば、料理がランダムな場所置かれるとか。大勢の飲み会ではコース料理が次々と運ばれて来るが、各席で違うものが置かれればいい。次の鍋はまとめてこの席に置きますね、のように。こうすれば料理を取りに行くのが口実になる。


なんならアクシデントでもいい。いや、アクシデントの方がいいかもしれない。30分おきに会場の畳がランダムで抜けていくとか。お酒を飲みながら談笑していると、足元がグラグラと揺れる。それが畳の抜ける合図だ。そこにいる人たちは他の場所へ避難しなければならない。強制的に移動が生み出される。そうして、別の「輪」に入ることができる。


あとは、巨大なヘラジカが乱入してきてもいい。

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