ディストピア-桜の下の黒百合

涅槃寂静 喔涅#Agree

1話 爽籟の燦めける、強い日射しと。

 𓂃◌𓈒𓐍 .𓈒 𓂂𓏸𓆉 𓆛 𓆞𓆡 𓇼𓈒


爽籟そうらいの燦めける、強い日差しと、蒼き青春の光りが飛び交う、朝景色と港町。学生達の陽気な笑い声に、山奥から靡くなびく風鈴の涼けさ。

窓枠の外から聴こえる静寂しじま風音かざおと

ありふれた、何気ない相貌そうぼうだ。


夏燐かりんおは〜」

「あ、おはよう黎椰れいや!」


あたし金宮夏燐かなみやかりんは横浜生まれ横浜育ちの高校三年生。

同じく横浜生まれ横浜育ちで同級生の黎椰れいやあたしの幼馴染みで一番の親友である。

私は本が大好きで、よく友達や家族と本を読む。それもあたしの日常だ。


𓂃◌𓈒𓐍‪ 𓏸𓈒𓂂


わたしの名前は華涼黎椰はなすずれいや夏燐かりんとは、幼稚園の頃からの幼馴染みだ。長らく一緒に居るせいか、今に至っては、運命共同体とでも言おうか、互いが互いの鏡となっている。だが、そんな私にも分からない秘密が、夏燐かりんにはあるようだ。

夏燐かりんは中二の頃から、通学用バッグにヒスイカズラのキーホルダーを着けている。本人の扱い方を見れば誰でも大切にしていると分かるだろう。だが私は、其れにどうも嫌な感じがして、見る度に焦燥に駆られていた。



あの時_________________



"心的外傷後ストレス障害"


夏燐かりんは不登校だった。

担任から理由が明かされる事は無く、その後この一年二組から夏燐の面影は薄れていった。

だが、夏燐かりんが苦しんでいるのは幼馴染みである私が一番よく分かっていた。なのに私は声をかけなかった。何を言えば善いか分からなかった。

そうして、それから四年の年月が経った。

今も夏燐かりんの心は、暗闇に取り残されたままなのだろうか。


「もう黎椰れいや〜!早くしないと置いてくよ〜」

「あちょっと!待てってば〜」


だがそれも、もう終わったことだ。


𓂃◌𓈒𓐍𓈒𓂂 𓈒𓏸 𓋪


一通りHRを終え、一時限目は化学なので移動だ。


黎椰れいや、一緒に行くよ!」

「あ、うん」


𓂃◌𓈒𓐍.。𓈒


「にしてもうちの学校は広いねぇ…」

「ね〜、廊下が長過ぎる割にどの階も構造が似てるから何処がどの部屋か分かんないよ」


生徒たちの声が、あの夏の思い出が、重複する記憶が、その全てが何気ない日々のキャンバスに、泡沫に溶けていった。






𓈒𓂂𓂃◌𓈒𓐍






俺の名前は荘星しょうせい流輝奈るきな。鎌倉生まれの高校一年。親に頭の良い高校へ行けと言われ、中学一年の時からこの高校に来る運命は決まっていたようだ。覚悟はしていたが、やはり、ぎゅうと締め付けられる様なこの胸の痛みは絶えず襲ってきたのだった。


「よ、流輝奈るきな!」

「あぁ、おはようさく


こいつは希厨 朔きくりや さく

高校に入って早々、俺を避けるクラスメイトに撞着した友達と呼べる唯一の存在だ。

それから毎日、俺が独りになっているところを見ると必ず駆け寄って来る。執拗くて面倒臭い奴だと思っていたが、それでもこんなはずれ者の俺を気にかけてくれる事が堪らなく嬉しかった。


「…ふ、まぁいいか」

「何一人でブツブツ言ってんだ?」

「いーや、何でもねぇよ」


俺の目的は変わらない。誰にも揺るがされない。きっと、否、必ず、彼奴の息の根を止める。

死ね。

俺というはずれ者の復讐を一身に受けて。世界から蔑まされる苦しみを、疎外する孤立感に侵されて。


そうして、


世界の何処かに黒百合が咲き誇るのだった。


空は何処までも澄んでいて、石楠花を藍で染めたような、もどかしく美しい風景だった。


夜街を駆ける車達のクラクションも、ボンネットにぶつかる鈍い衝撃音も、それに伴う人々の悲鳴も、感傷も、塵のように小さな存在であった。




その瞬間、最期の幕が開けた。

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