せっかく転生したのに、どうやら俺には魔力がないらしい

天宮 レイ

第1話日常そして転生

 俺の名前は、鈴木すずき 拓也たくや26歳世間一般でいう社畜だ。


 学生時代それほど頭はよくなかったが勉強はできる方だったと思う。いや、並々にはできていた。そして普通の高校を卒業し、普通の企業に就職したはずだった。

 ブラック企業だった。

 毎日残業は当たり前その上残業しても給料はそんなに変わらない、だからといって定時に帰ろうものならあのクソ上司に怒鳴られさらなる仕事を押し付けられるといった典型的なパワハラを受ける。あの上司、先に帰るくせに……。

「やってらんねぇ~。」

 俺はそう言いながら自販機で買ったエナドリを手に取り自分の席に着く、今日の相棒はレッ○ブルだ。


 クシュッ‼


「ゴクッゴクッ…っぷはぁ…。」

 エナドリ一気飲みはよくないと聞くがそんなものは今は関係ない。

 早く残業終わらせより迅速に帰宅することが最優先だ。

 それにエナドリこれは数少ない俺の生きがいなのだ。

「まだ10時……。」

 今日はめずらしく日付が変わる前に会社を出ることができそうだ。


 


「…っと、ふぅ~終わった終わった、今は………11時48分!よしっ今日は日付が変わる前に会社から出れる…っていうかあのクソ上司今日も先に帰ってんじゃねぇかよ。」

 あのクソ上司クソ野郎に先を越されたが今ならまだ終電に間に合うだろう。

 俺が椅子から立ち上がると横から

「あっ先輩!今帰るところなんですか?」

 こいつは山本 明、俺の3つ下の後輩だ。

 俺はこいつのことは「明」と呼んでいる。

 明はよく俺に話しかけに来る。

 よく話す後輩がいるというのはいいな、なぜだか分からないが少し気が楽だ。

「ん?明か、今日は早く終わったからな。俺はもう会社から出るところだ。」

「奇遇ですね、僕も今日は早く終わったので今帰るところなんですよ!」

「そうか、奇遇だな。」

「あっそうだ、もしよければ今日は一緒に帰りませんか?」

 何か死亡フラグだろうか。まぁ、断る理由もないしいいだろう。

「じゃあ、一緒に帰るか。」

「はい‼」 

 そう言って、早く会社を出るために身支度を済ませる。

「今日は余裕で終電に間に合いそうですね。」

「そうだな、今日は早く眠れそうだな。」

「そうっすね!」

 会社を出て何気ない話をしながら駅に向かった。

 いいから早く帰って寝たい………。

 疲れているからか信号機待ちがいつもより長く感じる。


 カッコーカッコー…


 信号機が青になり明が先に歩き出す。

 俺は一歩目が遅れ明が止まる。

「先輩?青になりましたよ?」

「あぁ、すまん考え事してた。」

 やはり疲れているのだろう。

「先輩!早く行きましょうよ、終電逃しちゃいますよ!」

「そうだな、行こ―――。」

 明が横断歩道の真ん中辺りまで歩いた時、ものすごい速度で明にめがけて突進してくるトラックが目に映った。

 気付くと俺は身代わりとならんばかりの勢いで明を突き飛ばしていた。

「明!危ない―――――‼」

「先輩!?なんっ――――」


 ドンッ‼


「なっ、先輩っ!!?先輩……!!」




 もう何も見えない…何も聞こえない……。

 なんだここは…ここが死後の世界か…あたたかい。

 思っていたよりずっといい場所だな。

 俺の最後は人かばって死ぬのか…いい人生…って訳でもなかったなぁ。

 ブラック企業に就職しクソ上司に仕事を押し付けられる日々。

 とれたはずの有給。

 俺は人生を満喫出来なかった。

 それより明は無事だったのだろうか。

 もういいや…疲れた…。




「―――ナ、――レ――ナ。」




 ん?なんだろう?誰かの声が聞こえる。明だろうか、にしては声が高いような気がする。

 目が覚めると、目の前には見知らぬヨーロッパ系の夫婦(?)が居て、俺はベッドに横になっていた。

 俺は手を伸ばしベッドから起き上がりろうとするが起き上がれない。

「あぅ…あぁ…?」

 思ったように体が動かず声も上手く出せない。そして自分の手が小さい。

 自分の目に映る情報を脳が処理出来ない。


 え?はっ…?え??

 はぁぁぁぁぁぁあ!??

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