第13話 交代してみた
「シン、おつかれー。交代ね」
とことこと、こちらへと駆け寄ってくるカレン。
ペンを持っていない方の左手をあげているので、俺も自分の左手をあげて応える。
カレンの滑らかな手のひらが優しく俺の左の手のひらに触れ、少しだけそこにとどまると、わずかな熱を残して離れていく。
「あとは任せてねー」
そのまま、燃え盛るプラント・ジャイアントの方へと進むカレン。ペンを持ち上げ、最後の仕上げに取りかかろうとしたときだった。
「……あつっ。あっつ。熱い──。シン、少し火力、おとして……」
すぐさまこちらを振り向くと、カレンは悲しそうにお願いしてくる。なんだか色々と台無しなのが、いつものカレンという感じだ。
「わかったわかった。ちょっと待って」
俺は自分のペンを掲げると、反時計回りにゆっくりと回して、火力を調整していく。
「あ、これぐらいっ。ありがとう、シンっ」
「はいはい」
仕切り直しとばかりにペンを再び構えるカレン。そのまま、だいぶ焦げて、ほとんど動かないプラント・ジャイアントめがけて自らのペンを突き立てる。
プラント・ジャイアントの声にならない断末魔のような悲鳴が響く。
折り畳まれていたカレンの「式神下ろし」の魔導紋が、突き立てられたペンを中心に再び広がると、ボロボロになったプラント・ジャイアントを優しく包み込んでいく。
「あの、シン殿。何が起きるのですか」
いつの間にかシルビアが俺の背後まで近づいて来ていた。
このあとは危険なことはないはずなので、俺もそれを咎めることはせずに答える。
「歪みを具象化したモンスターは、倒してしまうと、どうやら別のところでまた歪みになっちゃうみたいなんですよ」
「そんなことが……。初めて聞きました……」
「まあ、俺たちも数例、そういうのを観測しただけなんで、推察にすぎないんですけどね。で、カレンの考えた対応策があれです。式神化」
「式神って、そもそも何なのですか?」
「なんか、使い魔的な感じみたいですよ。ほら、あんな感じです」
俺が指差すと、ちょうどプラント・ジャイアントの姿が消えるところだった、
代わりに、何かがそこに落ちている。キラリとした光を反射する、それ。
「うわー。今度のは大きいよ。シンっ」
カレンがそれを拾って嬉しそうに見せにくる。
カレンの手にある半透明の板のようなものが、プラント・ジャイアントの似姿の形になっている。板自体はカレンの手のひらを広げたぐらいのサイズがあった。
「それが、式神、ですか?」
「そう。『アクリル』という特殊な素材にプラント・ジャイアントの力が封じられているんだよな、カレン?」
「そうだよー。お願いすると、ちょっとだけ、助けてくるの」
そういってカレンは、腰の物入れにプラント・ジャイアントの式神を大事そうにしまうのだった。
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