チャット・三角のアイコン
いつもと同じく、会社から家へ戻ってからチャットアプリのグループで他愛もない話をしていたところ、ぽんっと音が鳴って新たなメッセージが来たことを告げた。
兵賀:「そういえば、三角」
三角:「なんだね兵賀くん」
兵賀:「なぜ俺たちがお前の作ったアイコンで、お前だけが猫の写真なんだ」
九木田:「ねこ」
兵賀:「九木田、今は猫に反応するんじゃない」
三角:「猫というかもふもふへの執着だけは本当に変わらんよなくっきー」
兵賀:「本当にな。それで三角、どうなんだ?」
どう、と言われましても。
そんなことを思いながらわたしは正直に答えるか、話を盛るか考えて、すぐ面倒くさくなって正直に言うことにした。
三角:「だって無難じゃん」
九木田:「猫を無難とか言うな」
三角「くっきーの琴線がわからないよ、ひょーちゃん……」
兵賀:「安心しろ、俺にもわからん」
猫を始めとしたもふもふを愛する九木田には、猫が無難、は地雷であったらしい。わかるかそんなん。とりあえず、わたしは九木田を放って話を続けることにした。
三角:「三角で文字画像アイコン作るにはちょっとごついなと思ってさ」
三角:「友達んちの猫ちゃんの写真、許可もらってアイコンにしてます」
九木田:「友達の家の猫を紹介してくれ」
三角:「九木田、お黙り」
兵賀:「九木田いらんことを言うな」
兵賀:「まあ、確かに女性のアイコンとしては三角は厳ついかもしれんな」
兵賀に同意を得られたことで、わたしは画面のこちら側でそうだろうそうだろう、と頷いた。わたしの技量ではどうやっても三角という二文字が可愛くならなかったのだ。仕方ない。
三角:「でしょ?ネタでさんかくの絵のアイコンも考えたんだけどさ」
三角:「なーんかしっくりこなくて」
九木田:「平仮名ならマシになるんじゃないか」
兵賀:「お、九木田があちらの世界から戻ってきたな」
三角:「おかえりくっきー」
九木田:「俺はどこにも行ってない」
三角:「そういうとこだぞ」
兵賀:「そういうとこだな」
九木田:「何の話だ」
そういうところが天然だって言ってんだよ、とメッセージにしないで独りごちる。きっと兵賀もわたしと同じことを九木田に対して思ってる。メッセージにはしないけども。
九木田:「とりあえず三角は今のまま猫でもいいんじゃないか」
三角:「お、その心は?」
九木田:「猫のように自由気まま、だが心を許した相手だと甘えてくるあたり性格がそっくりそのまま猫じゃないか」
三角:「……そういうとこだぞ」
兵賀:「なるほど、そう言われてみれば確かに三角には猫が似合うな」
三角:「兵賀絶対にやにやしてるでしょ」
兵賀:「いや?大笑いしてる」
三角:「このやろー!」
九木田:「お前たちさっきから何の話だ?」
九木田に落とされた天然爆弾で顔が熱くなるのを感じる。わたしはそんな猫みたいに可愛い性格はしていないはずだ。知らんけど。しかも爆弾を落とした九木田本人は話の流れがわかっていないときた。こいつのこういうところが困るのだ。画面のあちら側で大笑いしているらしい兵賀に牙を剥くしかできない自分がなんとなく情けなくて、ぽっぽする顔をそのままに唇を噛んだ。
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