君だけは

椎名

第1話

高校二年の春、学年が上がりクラスで新しい交友関係ができてきた頃


俺は放課後の屋上にいた。


「君は死ぬべきじゃない」


ずっと考えていた言葉を君に話す。



柵の外側へ向けて







彼女とは1年の頃同じクラスだっただけで、特に関わりもないただのクラスメイトだ。


彼女は中学生の頃からモデルをやっていて学校は休みがちだったらしい、高校からは女優業を始め学校は休みの方が多いくらいだった。

だからなのかクラスでは完全に孤立。一部の女子からはイジメとも言えない程度の嫌がらせが頻繁にあった。

クラスの人は基本傍観するだけだった。

俺自身も助けられないと思い。傍観するだけだった。


しかしある日の出来事から彼女を助けたくなった。


〜〜〜〜〜〜


春休みの終わりひとりで古本屋に向かっている途中ヤンキーに絡まれた。


「何も持っていません」


何度も言うが相手は聞かない


遂には殴られそうになったところで、


「警察呼びますよ」


その一言でヤンキーたちは離れていった。


声の方へ向くと彼女が立っていた。


「ありがとう」


「クラスメイトが困ってたから助けただけ、じゃあね」


そのまますぐに去っていってしまった。


クラスで何もしなかった俺を助ける義理なんてないだろうし助けたくもなかったはずだ。

それなのに彼女俺を助けた。今まで傍観者として振舞っていた自分が恥ずかしくなった。


今度こそ傍観者なんて辞めるそう誓った瞬間だった。


〜〜〜〜〜~


「君は死ぬべきじゃない」

「もう無理なの1年の間は我慢してきたけどもう限界なの」

「君は絶対に死なせない死なせやしない」

「ほっといて」

「死んじゃダメだ」

「どうしてそんなに止めるの関わりなんてなかったじゃない」

「俺は君に助けてもらった、だから今度は俺が助ける」

「助けた覚えなんてない」

「俺は覚えてる君にとって小さなことでも俺にとっては大きな恩なんだ」

柵をこえながら答える。

「震えてるみたいだから。本当は死ぬのが怖いはずだ。1年間傍観者だった俺の言葉は信じられないと思う。でも信じて欲しい今度こそ君の力になる。それに君も本当は死ぬつもりないだろ」

「そんなことない今度こそ死ぬ」

「そう言ってここ2日何もしなかったじゃないか、柵の内側へ戻ろう今日はもう無理だろ」

「うん」


そう言って柵の内側へ戻った。


戻ってすぐ彼女は泣き出してしまった。

彼女へハンカチを手渡し、少し離れて待っていた。

「ごめんハンカチはきちんと洗って返すよ」

「じゃあそれまでは死ねないね」

彼女は怒って今日こそは飛び降りようと思ったのにと言う。だからこそ止めに来たんだけどもそれは口にしなかった。


「とりあえず落ち着いた?」

「ごめん急に泣いたりして」

「俺こそこんなに君が傷付いてるなんて思ってもいなかった。1年間助けられなくて本当にごめん、これからは絶対に助ける何があったとしても」

「大丈夫だから頭を上げて?」

「わかった。とりあえず教室に行こうもう全員帰って誰もいないから」


頷いたのを確認して屋上の扉へ向かう。


〜教室〜


「ここまで追い詰められてることを誰かに相談した?」

首を振って答える。

「親には今までわがままを言ってモデルとか女優とかさせてもらってるから迷惑はかけたくなかったの、先生はまともに取り合ってくれなかった」

それからもずっと彼女は話し続けた。途中からはこの前見た猫がとても可愛いかったことや花が好きなことなど全く関係ない話が続いたが相槌を適度に行いながら話を聞き続けた。多分ストレスを抱え込んでいたんだろう。1時間ほど話したところで彼女は言う。

「ごめんずっと話しちゃって関係ない話とか」

「全然大丈夫、知らない一面が沢山知れて良かったよ」

彼女は顔を赤らめながら言う。

「だって高校で友達とこんな話したこと無かったから。あ、ごめん勝手に友達とか言って」

「全然いいよむしろこっちがいいの?って感じだよ今まで何もしてこなかったのに」

「あはは、あんま気にしてないよ、中学からこんなだったから」

「もう君を一人にはしない絶対に約束する。何があっても君の味方でいる」

「あはは、すごい恥ずかしいこと言うね」

「あ、ごめん君が嫌だったらいいんだほんとに俺なんかで良かったら」

「ありがとう嬉しいよ、全然今まで誰も助けてくれなかったから」

暗い顔をするやはり少し話した程度じゃ簡単には治らないか。

「連絡先交換しよ」

「ああ」


時計を見てそろそろ最終下校時刻になったので彼女に言う。

「そろそろ帰ろうか」

「うん」

「家送るよ」

帰る時も彼女の話は止まらなかった。本当に他愛のない話ばっかりだったが彼女が楽しそうだったので邪魔しないよう相槌を続けた。

「あ、ここが私の家だよ」

「え、ほんとに?」

「うん、なんで?」

「いや俺の家ここ」

斜め前の一軒家を指す。

「なんで今まで気付かなかったんだろうね」

「だな」

「これから一緒に行きやすいね」

「え、一緒に行くの?」

「あ、ごめん嫌だった?」

首をブンブン振りながら

「嫌なわけないよ、ただ俺なんかでいいのかなって」

「絶対一人にしないんでしょ?」

小悪魔っぽく笑う。彼女は続けた。

「じゃあ後で明日のこと連絡するから」


俺は立ち尽くした。さっきの顔が忘れられない。本当に綺麗であると同時にずっとあのように笑っていて欲しいと思った。もう二度とあの暗い顔にはさせたくない。しないと誓った。

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