再会と新世代 Ⅹ ´

 流石に新武装の2発目は撃ちたくない。だが、このままだと冗談ではなくなってくるな……


 敵が迫る中、アストは先程の援軍情報の履歴をささっと見る。


 援軍のサクラメントエレク――なんだ?やたら長ったらしい情報だな。もっと簡潔にまとめて欲しいところだが――


 先に現場の状況を整理しないと……


「ソフィアはそのままテレテを護衛しつつ前線からなるべく離れるように誘導してくれ」


『わかった』


「リリア、アーシア。状況は?」


『こいつら通常のENIMエニムと違う血液なのか、地味に対ENIMエニム用の実弾が有効じゃないから厄介。慌てず丁寧に光子系装備で対処すれば何とかなる。――アーシア左へ』


『少し待ってください……よし、お待たせしました!――私が惹きつけてリリアさんのフォトンブラスターで何とかやれてます!』


 言われてみればプロレファレイト急速増殖が実弾によって爆散する姿を見ていない。


 本来、対ENIMエニム用の実弾は奴らの特殊な血液に触れると引火し、内部で爆散するハズが何故か反応しないらしい。つまり、増殖させずに完全に消滅させるには光子系装備が効果的のようだ。


 何とかできそうなのか、凄いな……

 

 彼女たちの適応力には毎度驚かされる。だが、こちらはどう対処したものか……


「準特殊光子武装砲の次弾までの冷却時間は?」


「――420秒程です」


 ドレットノートよりは、これでもかなり改善されているのだろうが……時間が掛かり過ぎる。主砲を当たりやすい榴弾に変えたところで奴らを増やすだけだろう……


「万事休すか」


『随分とショボい万事休すじゃな。B装備の余りがあるならワシがこのまま出よう。機体を固定して近づいてきた敵だけを迎撃する』


「……ダニエル軍曹、頼みます」


『任された!サラ副長殿、発射方向をそちらとリンクさせる』


「了解しました」


 この2人のやり取りに打開策が見いだせる気がして少し安心するアストだが、実際はそうもいかなかった。

 

 インヴィンシブルハウザーの冷却時間が残り300秒を切る前に対ENIMエニムデコイフレアを使い切り、ダニエル軍曹の奮闘も虚しく、ほぼ0に近い僅かな時間を稼ぐことしかできない。


 使用しないでいた自動砲座や、榴弾などをやむ無く使用し、冷却時間を稼いだ代償はプロレファレイト急速増殖をただ増加させるだけだった。


 頼みの綱のリリアとアーシアもこの距離では到底間に合わない。仮に来てくれてもDrive Dollドライヴドール2機が加勢したところで、どうにかなる数ではない。



「右舷。主砲及び自動砲座、誘導ミサイル・ベイ損傷!」

「本艦の左舷に取り付かれました!」


『固定を外せ!左舷はワシが落とす――』

 

 ダニエル軍曹が固定装置を外し、左舷へ飛び出す。腰部の光子銃砲フォトンブラスターで取り付いた。プロレファレイト急速増殖を上手く処理していく。だが、彼とアルキオネに光子口砲フォトンカノンの雨が襲う。


『ぬぐぅ……!!』「ダニエル軍曹!!――くっ!」


「被弾箇所の隔壁閉鎖!艦稼働率が59%にまで低下します!」


「左舷誘導ミサイル発射!――くそ!冷却時間は?」


「残り110秒です!」


 そんなに掛かるのか……


 だが、それはもうあまり関係ない。


 後方へ発射角が取れないインヴィンシブルハウザーは今の様な状況ではただの飾りだ。


 情けない話。ただ俺は、何もしない間を作りたく無かったから聞いただけ……


 



 アルキオネが爆発音と共に大きく揺れ、アストの視界がスローモーションの様に映った。

 

 皆、怯えている。俺が戦いを始めなければこうはならなかった……


 第3艦隊時代の23年間、今日の様な窮地は何度もあった……そうならないように俺はなるべく目立たないように立ち回る事でクルー全員と共に何とか生き延びようとした。

 

 だけど結局最後は"アイツらの犠牲"のお陰で俺は生き残ってきた――生き残ってしまった。


 犠牲の上で何十年も何十回も戦場から戻る。そんな戦艦ふねを誰かが不沈艦だと言った。


 笑えない冗談だ……


 今からでも俺だけが犠牲になって、皆が救われる。

 

 そんなうまい話は無いだろうか……


 無いよな。


 





『――まだ沈んでない』


 なんだ?誰の声だ?


 サラ副長が震える声でアストへ報告する。


「本艦の前方より接近する機影在り。この速さはDDの速度ではありません……ENIMエニム?!」


 

 アストは前方を映し出すモニターに目を凝らす。



 幻覚のようにも見える蕾の様な影は、ゆっくりと花弁を広げ咲き誇る。それは、美しく水面に咲く花の様だった。



「――あれは…………スイ……レン?」



 広がる花弁の先は周囲のプロレファレイト急速増殖を同時かつ精密に捉え、光子を放ち狙撃を開始した。


 ASSAULTアサルトギアを超える速度。

 BUSTERバスターギアを超える火力。


 この時点で従来のDDでは考えられない程の性能を有している。


 アルキオネの周囲にプロレファレイト急速増殖が存在しなくなるまで、鱗の1枚も逃さず淡々と撃ち落とし消滅させていく。


 やがてプロレファレイト急速増殖はそんなスイレンの様な機体へ標的を定め、狙撃を逃れた数体が左右から牙を向く。しかし漆黒の花は狙撃を止めない。


 鋭い牙で漆黒の薄い花弁へと噛み付くがビクともしない。


 噛み付かれたままの花弁は悠然と下方から2つに割れ、中央のDrive Dollドライヴドールと思われる人型兵器の左右にまるで翼の様に展開した。

 

 そして、今まで放ち続けた光子武装の熱を花弁の翼から放熱すると鮮やかな青色の根本から少しずつ赤紫色、そして徐々に外側が赤色へと色付いていった。


 超高温の放熱は噛み付いていたプロレファレイト急速増殖の牙を溶かし鱗を焦がす。そして、ゆっくりと羽ばたき振り解いた。


 牙と鱗を失った複数体の怒れる宇宙怪獣は、報復するかの様に光子口砲フォトンカノンを発射する。


 しかし、漆黒の人型兵器が両腕を左右に広げると円形の光り輝く壁を発現させ、光子口砲フォトンカノンを全て弾き飛ばした。


 複合多重装甲ラーテと同等かそれ以上の強度に武装と排熱機構を備えた花弁状の翼。

 DEFENSEディフェンスギアの光子境界フォトンシールドを彷彿させる装置を両腕に搭載している。



 その美しい翼を広げ、悠然と敵を根絶していく姿は、アストには人智を超えた天使の様にも見えた。


 その後、艦長でありながら指示をすることもなく、口を小さく開けたまま漆黒の天使が敵を殲滅する光景を見届けた。


 



北暦290年 

ケプラー日時 12月10日 20:56


 第2超巨大コロニー グリーゼ 南ゲート近郊に出現した全てのENIMエニムプロレファレイト急速増殖の排除が完了した。


 この日の戦闘は後に、グリーゼ南安全宙域防衛戦と呼ばれ、ENIMエニム及びNamedネームドとの予想を超えた規模での戦闘は宇宙連合軍が多大な犠牲を払いグリーゼを守り切り、終結したのだった。

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