再会と新世代 Ⅱ

 エースパイロットという言葉に引っ張られて直ぐに気付けなかったが、訓練生時代にマッカートニーっていう凄腕の先輩がいたことを思い出した。 

 

 エースパイロットって自分で言うくらいだ。差し詰め彼の息子とかそんなところだろう。



「ほら!見てください!アルテミス級 5番艦のアルキオネですよ!本物です!!」

 

 眼鏡を掛けた見るからに物知りそうな訓練生が興奮気味に伝える。


「へぇ~あれが授業で習ったアルテミスの姉妹艦かぁ~」

「珍しいっていうから見に来たけど……なんかボロボロじゃん」


「うわうわ! カタパルトハッチが開いて……!?――あれはUSP-G005とUFP-G014!!ヴィナミスとエクスィーです!!」


 アルキオネに格納されていた機体が移動コンテナに積まれゆっくりと現れると、更に彼のテンションは上がっていく。


 見ただけで機体が分かるのか……相当な物好きだな



 機体名などは知っていたのか「なんだ……ロートル機体ばかりじゃないか」とエリオットが反応する。


「母艦が古いと搭載されている機体さえ古いのか……あれじゃ沈むのも時間の問題だな。そんなに珍しい戦艦ふねならさっさと博物館にでも飾られときゃいいのに」


 エリオットのイカしたセリフに、物知り眼鏡君以外の訓練生が爆笑する。


「お前さんら、いい加減出て行かんかい!!」


「まぁまぁおじいさん落ち着いて、あちらにも一般の方がいるじゃないですか?それなら俺たちがいても問題ないでしょう?」


 一般の方って……俺のこと!?


 アストは自分の姿を確認した。


 あ、休暇で私服なんだった。そう思われても仕方がないか


 エリオットは舐める様にアルキオネの状態を見ると鼻で笑い「しかし、あのザマだと艦長もパイロットも大した事なさそうだな」と言い、他の訓練生と共に彼も声を出して笑った。


 本当に人によって見る眼が変わる……


「エースパイロット君、キミいい眼をしてるよ……確かに、大したことない」


「あなたは?部外者はさっさと出て行った方が良いですよ?」


「エースパイロットか何だか知らんが、流石に立場を――」


「ダニエル軍曹!大丈夫です。俺もそろそろ帰ろうと思ってましたから。また、時間が合う時に話しましょう。――君たちも訓練生なら早く出ていくといい」


「一般人に指図されたくはないですね」


「はいはい」とアストは冷めたコーヒーを飲み干し、休憩室を出ようとする。「そうだ」と自動ドアが閉まらない様に手で押さえ振り返り、ボス面したエリオットへ一言声を掛ける。


「その一般人視点で言わせてもらうけど、エースパイロットだろうが普通のパイロットだろうが、死んだら同じだ。――訓練は怠るなよ?」


 

 自動ドアを離し、一般人の男は休憩室から出ていった。



「訓練は怠るなよ?だって~うざいなぁ」

「何だあの人?エリオットの実力も知らないで!」

「一般人だからENIMエニムも見たことないクセにねぇ?」



「お前さんらも、間近で見たことはないじゃろ?」


 的を射たその一言に訓練生達は黙り込み、視線を少し泳がせる。


「お前さんらが今こうして笑っていられるのは、ロートルな機体とボロボロな戦艦ふね、そして勝手に大したことないと思っている艦長が、ここを護り続けてくれているからじゃ。彼らのお陰だということを忘れるでない!」


「説教垂れるなよ!ウザいな」

「私たちもこれから前線へ出るんですけど?」

「もう行こうぜ気分悪いわ」


「軍曹風情が、俺達パイロットへ口出しをするな」


 と捨て台詞を言い1人を残して彼らは出ていった。


「申し訳ありません。自分もアルテミス級の実物がどうしても見たくて……僕はとても綺麗だと思います。失礼いたしました……」


 眼鏡をかけた訓練生は彼らを追う様に休憩室を後にした。

 

 

 ワシらの時代だったら、あんな奴らぶん殴られとったわい……


 まぁそれよりも――あれだけ尖っていた あの"天音アスト" が随分と丸くなったもんじゃ。歳を取るというのは案外面白いのぉ




――そうは思わんかね?天音アスト少尉……




***




北暦290年 

ケプラー日時 12月8日 10:00

第2超巨大コロニー グリーゼ 完全独立部隊 アサナトス 軍事施設





 再びアルキオネから同じ3名がアサナトス司令室へ訪れていた。


「やぁやぁ諸君!お久しぶりだったわね!」


 お久しぶりですはこっちのセリフなんだよなぁ……5日間も音信不通で変に心配しちゃったよ。……そんなことより――


「なんで映像通信ができるようになったのに、わざわざ直接対面なんです?」


「………………だめかしら?」


 あ、この人……せっかくうちのクルーが組み上げた映像通信のこと忘れてたな?

 そんな風にあざと可愛く言ったって誤魔化せませんよ?


「……別にいいですけど、任務ですか?それとも新しい人員が見つかりましたか?」


「ん~任務と言えば任務ね!でも、まずは朗報よ。あなた達の戦艦、アルキオネに新武装を搭載してもらうことになったわ!」


「本当ですか!?」


「本当よ?アルテミス級に携わった技術士がグリーゼには数名いて、知っているとは思うけど今年の中期に建造されたアルテミス級 7番艦 アステローペの規格落ち武装の内、有用と思われていた物をピックアップして搭載予定よ」



 凄いな、一花司令は俺の想像以上に有能な司令官なのかもしれない!



「それで本題の任務だけど――訓練生と模擬戦をしてもらうわ!」


 ――――え?訓練生……?

 マズイな、少人数だが変に面識を持ってしまった……

 それに模擬戦までの話の繋がりが全く理解できない


「すいません、なぜ模擬戦を?」


「何度もスカウトの話をしたら、向こうから提案してくれたのよ!私たちアサナトスの宣伝にもなるって」


 一花司令は相変わらず軍事的な事以外は、ちんぷんかんぷんだが……


「えっとつまり、相手方も発足して間もない我々の事が何も分からないから、せめて実力を見せて欲しいと?」


「そういうこと!1対1形式であちらからは代表を3人選抜してくれるそうよ」


 なんだか面倒なことになった……


 もう会わない相手だと思って、最後に変なことを言ってしまった。彼が代表3人に選ばれていなければ……いや、居るよなぁ。エースパイロットとか言っちゃう奴だし……



「機体と場所は用意してくれるみたい、早ければ2日後になると思うわ。アルキオネの武装の件と模擬戦の詳細は…………」


 一花司令は、アストへ視線を向ける。


 ――なんだ??


「わかってます……映像通信で伝えます!」


 俺、何も言ってないのに……どうして俺の顔を見てそんなにほっぺを膨らませる?


「承知いたしました。ではソコロフ大尉、早急に模擬戦の件をアリーチェ中尉とシェーンベルグ少尉へ報告して下さい」


「了解しました」

 

 ギャンギャン騒いでいる司令を他所に、サラ副長は淡々と指示を出し、手元の端末に色々打ち込み始めた。


 


 俺の知らぬ間に色んなことが決まっていく……どうなることやら

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