EP25 決戦間際
間もなく夜が明ける。
これから始まる一大作戦にARAs(エリアズ)各員はそれぞれの持ち場へとスタンバイしていた。「魔女」竜胆麗華(りんどうれいか)も自らのエゴシエーター能力を解放すべく、独自の持ち場へとワープする。
そして、夕星(ゆうせい)自身も〈エクステンド〉のコックピットシートに身を預けた。
「頼りにしてるぜ、〈エクステンド〉」
操縦桿に触れることで、機体を動かすための情報が再び脳内に流し込まれた。ヘッドセットを介した視界も良好。通信系も問題なしだ。
『あー、マイクテス。マイクテス。聞こえているかな、神室(かむろ)くん』
ジッというノイズの後に聞こえてきたのは未那月(みなつき)の声だった。
「聞こえていますよ、未那月先生。以前に使っていた変声機はもう使わないんですか?」
『使って欲しいのなら使うぞ。なんなら前みたいなノイズまみれの声じゃなくて、可愛い可愛い藤森(ふじもり)委員長ボイスで応援をしてやっても』
「それは結構です」
彼女もこちらの緊張をほぐそうと冗談を混ぜてくれたのか、それとも単にふざけているだけなのか。そこが曖昧だから夕星もキッパリと断りをいれておいた。
『だったら、少し真面目な忠告をしておこうか。あの蛹の怪獣はフェイズEX(エクストラ)のエゴシエーターだ。だから、ここから先は何が起きたとしてもおかしくない』
エゴシエーターに対抗できるのは、同じくエゴシエーターだけだ。従って麗華以外からの直接的な支援も期待できない。
加えて「陽真里(ひまり)のエゴシエーター能力はますます手のつけようがなくなっていくのではないか?」と未那月は予想していた。
『藤森委員長のエゴシエーター能力は端的に言うのなら「無から物質Aを創造するという過程を経て、自身の願いを叶える」ってところじゃないかな?』
言うなれば、それは夕星のエゴシエーター能力の完全上位互換であった。
夕星が〈エクステンド〉の武器を構築するためには、一度砂塵へと分解するための原料が必要になる。対して陽真里のエゴシエーター能力にはそれが必要ないと言うのだ。
そうなれば必然的に能力の制約も緩み、現実に齎す影響だって大きなものと化す。
「それでも……例え、何が起こるのか分からなかったとしても、俺はヒバチを元に戻してみせます」
夕星はハッキリと答えた。
今更、その程度の脅しで覚悟は揺らがない。
『そうかい。だったら、私からも一つ、神室くんに勝利の秘策を授けておこう。一度しか言わないからよーく聞くんだぞ』
◇◇◇
『────と言うわけだ。早い話神室くんの想いをしっかり届けろってことだね』
「はは……最後はだけはチープな言葉でまとめるんですね」
夕星は提示された秘策を聞き入っていたので、思わず最後の締め方に呆れてしまった。
だが、未那月も発言を撤回するつもりはないらしい。彼女は大言を謳うように続けてみせる。
『自分の意思を表明することのどこがチープなものか。君が藤森委員長に抱える感情は「恋心」と言うには重く、複雑なように見受けられる。だが、それだけ重く、複雑だからこそ、その想いをぶつけた衝撃もまた大きなものになるのさ』
それでこのふざけた「非日常」に打倒し、陽真里を元の日常に戻せると言うのなら、自分は全力で拳を握ろう。
操縦桿を一際強い力で握りしめ、夕星は軽く呼吸を整えた。
「ふぅ……」
思考はなるべくクリアーに保て。今はただ作戦を果たすことだけを考えろ。
蛹の怪獣を打倒し、広がる砂塵化を止める。────そして陽真里の「日常」を取り戻すのだ。
『それじゃあ、そろそろ作戦の時刻だ。ARAs構成員・神室夕星。君の健闘に期待する』
整備区画の天井がゆっくりと開き、〈エクステンド〉を固定したハンガーが上昇を始めた。
「電圧チェック。油圧チェック」
夕星はコックピットに備えられたスイッチを一つ、また一つと押し込んでいった。歯車状の瞳に、躊躇いの色は混ざらない。
「エンジン回転数・正常(ノーマル)。関節機構ロック解除。現実固定(メルマー)値センサーをアクティブモードへと移行」
ハンガーは完全に上がり切り、〈エクステンド〉は地上へと立たされた。砂塵化の影響によって軒並みが砂に呑まれた天川(あまのがわ)市からは、夕星の知る街並みも消えている。
そして、朝日が淡々と広がる荒野と、最奥に見えるのが巨大な蛹を茜色に照らし出す。
その姿をキツく睨みつけ、夕星は踏板(キックペダル)を踏み込んだ。
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