影の主

私が勤めていた高校での出来事だ。

夏休み前の2週間ほど、放課後は教室で三者面談を行うことになっている。

担任だった私は、三者面談用に予定表を組んだ。

面談開始時間が近くなったら、教室前においた椅子に生徒と保護者が座って待っていてもらうようにするためだ。

面談では日頃の生徒の様子や、成績、進路状況などを保護者も交えて話をする。

最初の頃は余計なことを話したり、真剣に話を聞きすぎたりしたため、後ろに時間が押してしまい、次の面談を待っている生徒と保護者を待たせてしまっていたが、今ではなんとか時間内に終わらせることが出来ている。

教室の面談机の配置は、私が廊下を見ることができるようにしている。

そのため、面談をしている最中に次の生徒と保護者が来ているか確認することができる。

教室の廊下側の窓ガラスは磨りガラスになっており、誰が来たかはわからないが、人がいることは分かる。


その日も、面談の途中で二人の人影が教室前の椅子に座るのが見えた。

おそらく次の面談の加藤とその親御さんだろう。

時間を見ると、面談終了予定時刻の5分前だ。

そろそろ面談を終わらせにかかろうとした時、廊下を歩いてくる人影が目に入った。

その人影はゆっくり動き、教室前に座る二人の人影の隣に立った。

二人の知り合いで世間話でもしているのだろうか。

今度は複数の人影がゆっくりと歩いてきて、三人の影に合流した。

十人以上はいるだろう。

そんなに大勢で何を話しているのか。

そもそも誰が立っているのだろうか。

不気味なことに、大勢が廊下にいるのに、廊下からは何の音も聞こえなかった。

そんなことを考えているうちに、面談も終わった。

生徒と保護者を廊下へ送り出そうと席を立った際も、人影はいまだにそこにいた。

誰がいるのだろうと、教室のドアを開ける。


そこには次の面談を待つ

二人の側にいたはずの影の主は、いない。


思わず「えっ」と声が出た。

そこに居合わせた全員が、怪訝そうにこちらを見遣る。

「さっきまで誰かといませんでしたか?」

そう聞いても、加藤たちは首を傾げるだけだった。




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