排水溝
かつての実家の風呂場が苦手だった。
玉石がタイルとなった床は夏でも冷たく、独特の足触りが気持ち悪かったし、青いプラスチックの浴槽も、よく見るとところどころにカビが生えていたのが嫌だった。
しかし、私の風呂嫌いを決定的なものにしたのは、排水溝だ。風呂場の真ん中にぽっかりと、その穴は口を開けている排水溝。今でもあの時を思い出す。
当時、中学生だった私は夜の7時頃、家に帰り、風呂に入っていた。
風呂椅子に座り、シャワーで髪を洗う。玉石のタイルの冷たさが気持ち悪い。浴槽の側面、床に近い部分には赤黒いカビが見える。
早く髪を洗って湯船に浸かって上がろう。いつもそう思っていた。
髪に付いた泡を流そうと、シャワーの蛇口を捻る。
その時、背後からゴポゴポと音がした。水中から浮き出た複数の大きな気泡が爆ぜるような音。
思わず振り返り、その音の出どころを探す。最初はバランス窯の内部に溜まった水が流れているのかと思ったが、それは床の真ん中にぽっかりと空いた排水溝から聞こえていた。
台所や洗面所で水を流すと、どこかで排水管がつながっているのか、水が流れる音がすることはあったが、今回は違う。排水溝の向こうから、ゴポゴポと音がする。詰まったのだろうかと思い顔を近づけた。
その時、声のようなものが聞こえた。まるで、水中から大声で何か叫んでいるような声。何を言っているのかはわからなかったが、何人もの人が何かを言っているかのように聞こえた。
その声は次第に聞こえなくなる。水が流れるようにどこか遠くへ行ったようだった。
そのことを母親に話していると、聞いていたのか、祖母がやってきて言った。
「ここら辺の排水は全部川に繋がってるから、たまに良くないものも混じるんだよ」
私たちが暮らす家の下に何者かが蠢いている姿を想像して、背筋に冷たいものが流れた。
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