裏山にて



小学生の時の出来事なので、記憶は定かではない。

しかし、今でもその出来事を鮮明に思い出すことがある。


小学校の校舎裏には山林が広がっており、昼間でも薄暗く、どこか薄気味悪かった。

その陰気さから、裏山に好き好んで近づく者などいなかったが、男子の間では放課後の肝試し場所として親しまれていた。


ある日のことだった。

放課後、私は先生に呼び止められた。


「山田を呼んで来てくれないか、きっと裏山にいるはずだから」


山田とは同じクラスの男子だ。

私は裏山が好きではなかったので行きたくはなかったが、先生からの頼み事は断れなかった。


仕方なく裏山へ向かった。

急げばそんなに時間はかからないだろう。

そう思い、駆け出した。


裏山はなだらかな丘のように傾斜がついており、そこに杉の木がまばらにある。

林床は枯れた杉の枝が積み重なっており、茶色の絨毯のようだ。


姿は見えないが、木々の奥の方から男子の声がした。

その声を追いかける。

しかし、どんなに駆けても、その声に追いつくことはなかった。

一度立ち止まる。

気付くと、辺りは日も暮れかけていた。

この裏山では余計に闇を感じさせられた。


もう戻ろう。

先生には見つけられなかったと言えばいい。


そう思い、来た道を引き返そうと、背後にある木々から逃げるようにして走り出す。


その時、後ろからガサガサと音がした。

振り返ったが、そこには誰もいなかった。


「誰?」


と声をかけても応答はなかった。

それからも、校舎に向かっている途中で、後ろに気配を感じた。

まるで誰かがつけてくるかのようだった。


泣きそうになりながら、というよりも泣いていたのかもしれない。

職員室に入ると、先生たちが私を心配して集まってきた。

私は先生に謝った。


「山田くんは見つけられなかったです」


そう言うと、先生たちは不思議な顔をした。


「山田?」

「誰のことだ?」

「そんな生徒はいないぞ」


背筋に冷たいものが走った。


山田くんのことを思い出そうとしても、思い出せない。


山田を呼んでこいと言ってた先生の顔も、思い出せなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る