透明な食指
「痴漢に注意」
よく見かける看板だ。
公園の植え込み付近に設置されているそれを一瞥する。
気になったのは隣の張り紙だ。
A4で雨風で風化しないようにラミネートされた張り紙には、赤字で目立つようにこう書かれている。
夜間、女性は立ち入らないこと!
女性に対してこれほど注意を促しているということは、よくないことをする輩がいるということなのか、嫌な想像をし、越してきたばかりのこの地の忠告に素直に従おうとしよう。
ある夜のことだった。
仕事を終えるのがいつもよりも遅くなってしまい、帰宅する途中で、宅配便の時間指定をしていることに気付いた。
いつもは公園を避けて遠回りしていたところだが、公園を通らなければ宅配便の受け取りに間に合わないかもしれない。
走り抜ければ大丈夫だろうと思い、公園前の道路を駆けた。
公園の公衆トイレを横目に通り過ぎた時、臀部を触られた気がした。
思わず声を上げてしまい、立ち止まった。
振り返ると、誰もいない。
何かの気のせいだろうか、そう思い、安堵する。
そしてまた駆け出した。
直後、今度は耳の後ろに湿った生暖かい風が吹いた。
誰かの吐息のようだった。
そのまま振り返らず、逃げるように家に帰った。
後で聞いた話だが、その公園には、夜になると痴漢をする幽霊が現れるのだという。
体を触られるのは良い方で、トイレに入った際に、襲われたという噂もある。
しかし、その姿を見たものはいないという。
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