第2話 知っていても教えてあげない
私は未来の予知能力を持っている。それも、かなり近い未来に起きる出来事が頭に閃くことがあるのだ。
もちろん、昔からこんなことができたわけではない。
母が事故で死んでから、だんだんとその能力が発現してきた。最初は、これなんだか見たことあったような、なんて既視感から始まった。
そして、まあ、偶然の一致なんじゃないのかしらと思って過ごしてきたのだけれど、だんだんとこれから起こる出来事が鮮明に見えるようになってから、私の中で未来が予知できると言う能力を持っていることが確信に変わっていった。
最初は面白がって、周りのみんなに言いふらしていた。でも、予知できることは良いことばかりではない。親切心で、悪いことまで教えてあげたら、不幸を呼び寄せる女と思われ、気味悪がられるようになってしまった。
こちらとしてはせっかく助けてあげよう思ったのに、と言う気持ちだった。でも、噂はだんだん広まって、母の事故まで、私のせいだなんて陰口を叩かれるようになってしまった。
そんなわけで、私としてはこの能力をすぐにでも封印してしまいたかったけど、見えるものは見えてしまうのだ。相手に災難が訪れることが事前にわかっているのに、黙って見ているのは結構嫌なものだ。だから、学園内では必要最小限しか人と関わっていなかったし、自分の能力のことをしゃべることは一切やめていた。
未来がちょっと見えると言っても、自分が見たい時に見えるわけではないので、役立つどころか、大抵は嫌な気持ちになるだけだった。何かが起こる少し前にそんなもの見せられても、ほとんどの場合は避けようがない。
だから、私は、カールに呼ばれてここにくる途中、《婚約破棄を言い渡される》というイメージが見えた瞬間から、すでにあきらめの境地にいた。最初からあきらめてしまえば、傷つくことはない。
未来には、2種類ある。変えられる未来と変えられない未来だ。しかし、実際には、私にはどうしようもできない未来ばかりだった。
こんな感じで、すっかり諦観してしまった私であるから、元婚約者のカールが口をパクパクさせているうちに、この場からさっさと退散することにした。聞いても無駄なだけだし。
すると不意に、《彼らは慌てて私を引き止めようとして追いかけ、段差で足が引っかかり、派手な音を立てて二人まとめて転んでしまう》というイメージが頭の中に現れた。
教えてあげようと少しは思ったが、やっぱりやめた。私はそのことを言わずに彼らの前から颯爽と立ち去った。
私が数mも歩かないうちに背後で盛大な音が聞こえ、予定通りの未来が実現した。
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