第35話  五稜郭降伏からエンディングまで

五月十七日 

六月二十六日

     午前六時、榎本総裁・松平副総裁・大鳥陸軍奉行・荒井海軍奉行の四将

     は降伏談判の為、五稜郭を出た。

     亀田八幡宮後方の会見場において新政府軍陸軍参謀増田海軍参謀との

     間に降伏の条約を交換した。

     この夜、 榎本総裁、松田副総裁、大鳥圭介、荒井海軍奉行四人は夜から 

     部屋に集まり決別と不安を押し隠し盃を重ね痛飲した。


     伊庭八郎は榎本に懇願し、モルヒネをもらい自害した。土方総督に会え

     ると言って涙を流したと言う。


五月十八日

六月二十七日 

     四将は亀田村の新政府軍本営に向けて山田市之亟参謀、有地・不破 

     両陸軍軍監、前田海軍軍監に六月二十七日 面会し降伏条件を了承した。

     これにより函館戦争は終結することとなった。

      

     五稜郭で捕虜になった将兵は約千名。松前江差方面で潜伏していた榎本 

     軍将兵で捕縛された人数は江差で百四十名、松前で百十八名、合計二百 

     五十八名と記録に残っている。

     弁天台場で捕虜になったのは、新撰組を中心に約二百名だった。

     捕虜になった将兵は諸藩に割り当てられ護送された。

     榎本、松平、大鳥・本多・荒井・相馬主計(新撰組最後の隊長)・松岡(幡 

     龍艦長)は青森に輸送され、

     青森からは罪人篭に乗せられ陸路東京に送られ投獄された。


     榎本軍で生き残った幹部のその後


榎本武揚 函館戦争終結後二年半の投獄生生活を送り、その後北海道開拓使、駐 

     露特命全権大使、外務大臣、海軍協逓信大臣などの要職に就く。七十二歳

     没。


松平副総裁 榎本同様二年半投獄生活を送る。投獄後、明治政府に開拓使御用掛・ 

     開拓使五等出仕に任じられて箱館在勤を命じられるが翌年には辞した。 

     その後、外務省に出仕するがここも長くは続かなかった。その後商売に

     手を出すがことごとく失敗。妻子にも先立られ晩年は榎本の庇護を受け 

     て暮らしていた。七十一歳没。


永井玄番 東京で投獄生活を二年半送り、その後明治政府に出仕する。開拓使御用 

     掛、その後、左院小議菅を経て元老院権台書記官に任じられた。

     七十六才没。


大鳥圭介 二年半の投獄生活後、左院小議菅・開拓使五等出仕、その後陸軍大佐を 

     拝命、その後いろいろな要職を経て学習院院長剣華族女子学校校長とな

     る。 七十八才没


荒井郁之介 二年半の投獄生活後、「英和」対訳辞書」を完成させる。明治政府に出

     仕。開拓使仮学校校長心得を務める。最終的には中央気象台長に就任。 

     七十四才没。


松岡艦長 明治四年七月五日熱病にかかり獄中で死亡。


相馬主計 明治三年にいづ新島に流罪、明治五年放免となり東京に戻るが突然切腹

     して果てる。 生没年は不詳。


滝川充太郎 開場後、弘前に送られ箱館を経て放免、静岡に移り日本陸軍に大川正

     二郎と共に入隊。明治十年の西南戦争に参加。別働第二旅団に所属し人 

     吉校暴対に参加。熊本県球麿郡瀬戸山で戦士 

     二十八才没。


大川正二郎 放免後、陸軍に入隊し、明治十年別動第一旅団第一聯隊に中隊長として

     西南戦争に出征。明治十二年石川県金沢市で病没した。  生没不詳。


島田魁  約六か月の監禁を経て名古屋藩に預けられる。その後、京都で剣術道場

     を開く。その後、西本願寺の夜間警備役として働き命じ三十三年西本願寺 

     で倒れ死去。 七十三才没。


森常吉  森常吉は、桑名藩士で藩主松平定敬が仙台から蝦夷地に渡航する際に主

     君警護として同行した。仙台で出港するとき、新撰組に入隊。蝦夷地到着 

     後新撰組隊長になった。投獄後、桑名藩に返され桑名藩において桑名藩 

     内の戦争首謀者として切腹した。  四十四才没。


大野右仲 「謹慎後命じ政府に出仕し、久美浜県権参事、豊岡県権参事、千葉、長

     野、青森等で要職に就いた。 七十六才没。


     旧幕府脱走軍組織図(陸軍幹部二百二十五名中戦死者二十名)

     旧幕府脱走軍組織図(海軍幹部八十人中戦死者三名)


     新撰組隊士百五十名に対して戦死者二十四名。(雑役夫三名含む)


     榎本軍  兵力三千五百名  

     戦死者数約千名 死亡率二十八、五パーセン


     新政府軍 兵力九千五百名 

     戦死者数三百名  死亡率三、一五パーセント


榎本軍戦場別戦死者数


戦場      武士階級    町人兵士  合計

七重村     百十六     四     百二十

千代ヶ岡    二十一     六十八   八十九

木古内     三十      十四    四十四

有川      六       三十二   三十八

大川      二十六     十     三六

福山      三十      一     三十一

亀田      十一      十一    二十二

矢不来     十       十一    二十一

箱館      二十一     〇     二一

桔梗      八       十     十八

富川      十四      一     十五

一本木     十二      三     十五

五稜郭     八       五     十三

江差      十一      〇     十一

二股口     八       〇     八

宮古湾     八       〇     八

折戸      五       〇     五

モグサ     五       〇     五

江良町     四       〇     四

稲倉石     四       〇     四

赤川      一       二     三

コブタ     二       〇     二

湯川      二       〇     二

茂辺地     一       〇     一

神山      一       〇     一


武士階級戦死者三百六十五名  

町人節戦死者百七十二名  

合計 五百三十八名。

碧血碑一八一〇四四九四七八参照記録には、松前・弁天砲台の記録はなかった。


八月十一日(九月二十三日)土方歳三の月命日


柳川熊吉 「土方先生ご報告が遅れちまった。すまねぇ。榎本軍の戦死者は千余   

     名だったと聞きましたので出来る限りご遺体を探し続けたんだが五百三

     十八名しか見つけられなかった。すまねぇ。

     武士階級の戦死者が三百六十五名、町人兵士の戦死者が百七十二名だっ

     たよ。

     先生、千代ヶ岡の中島殿親子は壮絶な戦死を遂げられた。町人兵士が一 

     番多く戦死したところだ。

     中島殿は町人兵に逃げろと言われたが一人も逃げなかったそうだ。中島殿

     のお人柄が出ていると思ったよ。

     七重村も激戦だった地だったよ。

     土方先生、榎本さんは何のために箱館に来たんだい。

     あの人は何がしたかったんだい。松前は町の四分の三が焼失したよ。こ  

     こ箱館も市中も酷いもんだ。

      先生が銃弾に倒れた時、榎本さんは完全に戦意を失ったようだ。弁天砲

     台、千代ヶ岡砲台が堕ちた。そして降伏。だが大将の榎本さんは自決する

     ことなく降伏したんだよ。大鳥さん、松平さん、永井さん、荒井さん

     榎本軍の首脳達全員生き残ったんだ。聞くところによれば彼らは直参な 

     んだろう。わしには考えられねぇんだ。

     伊庭さんは最後まで五稜郭を離れず最後はモルヒネって薬を呑んで自害 

     なすったそうだ。

     直参だった人達は生き残り、直参以外の人達が多く死んだんだよ。

     もう一回聞くが、榎本さんは何をしたくて箱館に来たんだい。

     先生、わしは柳川鍋の店を開くんだよ。前に言っていただろう。

     「柳川亭」って店を出すよ。先生、わしの柳川旨かっただろ

     う。  

     先生、今度の戦で戦死された兵隊さんを供養する墓を作るよ。

     約束する。それが出来たら先生もそこに入ってもらうよ。待っててくださ 

     いよ。


     先生が鷲ノ木に上陸してから銃弾に倒れるまで百九十九日だ、

     こないだ、数えてみたんだよ。

     百九十九日、短いようで長かったのかな。それとも長いようで短かった 

     のか。

     先生のような漢と出会えてありがとうございました。

     先生、今度は棟梁や和尚を連れて来るから楽しみにして待ってて下さい 

     な。

     先生、今日はこれにて失礼いたしやす。」


     終


                                           


                                    

あとがき


福沢諭吉の文章に「瘠我慢の説」がある。福沢諭吉が勝海舟と榎本武揚を

痛烈に批判した有名な文章である。

私は、この文章に共感するところ大であったが本文に直接的にかかわっていないと思い引用を避けた。

興味のある方は是非読んでみては。

          

     

       

     

        

      

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